パリに平和をもたらした『イマジン』、日本を熱くした『飛行艇』と『第ゼロ感』。スポーツを音で演出するスポーツDJ
千葉ジェッツの歴史とブースターの心をつないだ『Sirius』
主役はもちろん試合であり、それを構成する監督やコーチ、なんといっても選手であるべきだが、会場全体の雰囲気も見る者の“スポーツ体験”をより印象的にする。会場に流れる音楽は、その力を増幅させる縁の下の力持ちというわけだ。 近年、国内外を問わずスポーツの大会にDJが配され、音楽とともに観戦を楽しむことが増えている。日本国内でもNPB、Jリーグに加え、バスケットボールのBリーグに加え、ラグビーのリーグワン、女子サッカーのWEリーグ、先日開幕したばかりのバレーボールのSVリーグなど、プロないしプロ化を意識したトップリーグがリーグを挙げて会場のエンタメ化に舵を切っている。 DJ KAnaMEも、今季からBリーグの強豪、千葉ジェッツのアリーナDJに就任している。新アリーナ『LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ 東京ベイ)』での開幕戦で早速、以前、ジェッツがスターティングメンバー紹介の時に使用していた『Sirius』をウォーミングアップ時に流し、耳ざとい古参ファンの心をつかんだ。この楽曲は、マイケル・ジョーダン率いる全盛期のシカゴ・ブルズが選手入場時のテーマとして使用していたことからバスケットボールファンにとって“アガる曲”としてもおなじみだ。 音楽は、クラブとブースター、サポーター、ファンの歴史を紡ぎ、その心をつなぐ効果もある。
選手の背中を押したラグビーW杯の『飛行艇』
サーフィンやスケートボード、BMX、スポーツクライミングに代表されるアーバンスポーツは、より音楽との親和性が高い。カルチャー的側面を持つアーバンスポーツでは、選手自身がイヤフォンで思い思いの曲を聴きながら試技を行うスケートボードは別として、会場で流れる音楽が選手のパフォーマンスを左右することもあり得る。今回パリで採用されたブレイキンは、まさにDJ自体が勝敗を大きく分ける選曲を任されていて、言ってみれば競技のど真ん中に存在することになる。 DJ KAnaMEによるとアーバンスポーツを選曲で取り仕切るDJと会場の音響を担当するスポーツDJの役割は少し違うようだが、DJがアスリートのモチベーションやパフォーマンスにいい影響を与える可能性は間違いなくある。 2019年、日本で開催されたラグビーワールドカップは、日本代表が予選プールで強豪アイルランドを下すなど全勝で勝ち抜き、史上初の決勝トーナメントに進出したことで大いに盛り上がった。準々決勝では優勝チームとなった南アフリカに敗れたが、その勝利の象徴として、King Gnuの『飛行艇』という楽曲がフィーチャーされた。制作者であるKing Gnuの常田大希もSNSで「こういう姿をイメージして曲を作ってたから、この様子にはグッとくるわ」と反応。その後も、自らの楽曲が世界的なスポーツの祭典でチームに勇気を与えた感動を幾度となく口にしている。 この『飛行艇』を日本戦の象徴的なシーンで流し、“勝利のアンセム”として定番化したのが、開幕戦、準決勝、決勝を含む7試合のメインDJを担当したDJ KAnaMEだった。 ラグビー日本代表の選手も、この曲に勇気づけられた、勝つイメージが共有できたと好評だった。その後、『飛行艇』は、多くのアスリートが自身の勝負曲、勝利のアンセムとして挙げるようになったことを考えると、残酷な勝負の世界に生きるアスリートたちにとって音楽がプラスαの要因になることは間違いないだろう。