ウィリアン・リマ（左）から袖釣り込み腰で合わせ技一本を奪い、五輪連覇を決めた阿部一二三（撮影・中田匡峻）

　「パリ五輪・柔道男子６６キロ級・決勝」（２８日、シャンドマルス・アリーナ） 　男子６６キロ級で阿部一二三（パーク２４）が決勝でリマ（ブラジル）に一本勝ちし、２大会連続で金メダルを獲得した。日本男子の２連覇は７３キロ級の大野将平以来で５人目。同級で日本勢は６大会連続でメダルを獲得した。前回覇者の阿部詩（パーク２４）は２回戦で敗退し、阿部一との兄妹２連覇を逃した。阿部詩を破った第１シードのケルディヨロワが柔道でウズベキスタン勢初の優勝を果たした。前回２位のブシャール（フランス）は銅メダルだった。 【写真】阿部一二三と交際報道の小麦肌グラドル「一二三Ｔシャツ」で熱烈ナマ応援 　絶対王者としての重圧。国民の期待。そして、妹の無念－。その全てを背負い、一二三は畳に上がった。「妹の分まで兄が勝たないといけない。兄としてやるしかない」。一つのミスも許されない極限の舞台で、相手が人生を懸けて仕掛けてくる技をことごとくはね返し、こん身の力でねじ伏せた。最後は代名詞の袖釣り込み腰でたたきつけ、スタンドで見守る詩も号泣。全てに打ち勝ったヒーローは、２連覇を意味する二本指のポーズをした後、畳に最敬礼の座礼をして降りた。 　「すごくうれしい。気持ちよかった。重圧やプレッシャーは東京五輪より大きくて、この３年は苦しいことの方が多かったが、やっと報われた」 　衝撃的な展開だった。初戦を前にしたアップ会場。モニターには妹の詩が畳の上で沈み、泣き崩れる姿が映った。「想像してなかった。驚いたし、泣きそうにもなった。妹の負けがこんなに悔しいのかと」。それでも、「泣くのは今じゃない」と表情を変えず、くるっと振り返って自身の戦いへと向かった。 　兵庫少年こだま会で柔道を始めた頃から、一二三が先を走り、それを見よう見まねで追走してきたのが詩だった。いつしか、それぞれが世界のトップに立ち、東京五輪では史上初めて同日優勝。「もう同じ位置にいる。一緒に切磋琢磨（せっさたくま）しているライバル。僕が頑張れば妹も頑張るし、その逆もある」。“阿部きょうだい”として世間の認知が高まる中でも、おのおのがそれぞれの道で「パリできょうだいでの２連覇」という青写真を描いてきた。 　衝撃は大きかったが、改めて大舞台、そして勝負の怖さを心に刻んだ。準決勝は相手の捨て身の足技で腹ばいになるシーンもあったが、「妹の負けから、より気を引き締めた。足をすくわれたらいけないと」。詩の涙を無駄にはしなかった。 　尊敬する野村忠宏さんを超える４連覇にまた１つ近づき、「まずは次の３連覇（を目指す）」と早くも４年後を見据えた。ただ、それ以上に、きょうだいでの目標がかなわなかった心残りがある。「妹の負けはこんなにも悔しいもの、つらいものなんだなと」。詩は今後について明言していない。「きょうだいでロスで金メダルを取るために、これからもっと詩は練習して、試練を乗り越えていくと思う。僕もすごく悔しいし、兄としてはもう一度、同じ舞台に立って一緒に金メダルを取りたい」。満足感の中に、阿部きょうだいの次なる戦いを予感させた。