元アロマセラピストの舞台演出、専用装置で4種の香り 世界観伝わりやすく ~「五感」を創る コンテンツ制作の今~
一見無骨なコンプレッサーにつながれた噴霧器。専用コントローラーを使い、遠隔制御でシーンに合わせて吹き出させるのは「香り」だ。 【関連写真】「武士の献立」の舞台横にセッティングした香り送風機 アロマセラピストから転身した郡香苗社長が2019年に設立したSceneryScent(シーナリーセント、大阪市中央区)は、ライブや演劇といったイベント向けに独自の専用機器を使った香り演出を手掛ける。嗅覚を活用したシーン演出は、舞台の世界観をより伝えやすくする効果が期待できる。 郡社長が舞台演出の道に進んだのは、サロンを営んでいた12年、当時3歳の娘と通っていたダンス教室の先生からの依頼がきっかけだ。全体で15分の舞台のうち、終幕直前にバラの香りを演出したいという依頼を受けた。 郡社長は舞台演出の経験はゼロ。試行錯誤する中で出会ったのが、“師匠”と慕い、のちにシーナリーセントの設立にも携わった、特殊効果の企画や制作などを行うギミック(東京都世田谷区)大阪営業所の岡田正夫支社長(当時)だ。 15年には、岡田さんからNHK大阪ホール(大阪市中央区)での舞台「ヘンゼルとグレーテル」のお菓子の香り演出の依頼を受けた。それまでアロマセラピストとして一人で香りと向き合ってきた郡社長。 「舞台を作るセクションの一人として働く、チームの楽しさを知った」(郡社長)ことで、舞台演出の道に進むことを決意。依頼をこなすうちに香り演出の機器も作りたいという思いを強めていく。 17年には香り演出を事業化。18年にはギミックに加え、イベントの企画・運営を行うセカンドステージ(大阪府吹田市)、電子機器の設計・開発を手掛けるモトシステム(大阪市西淀川区)の協力で試作機を完成。19年にシーナリーセントを設立した。 ◆完成した香り演出装置 「私はアロマセラピストで回路や通信規格などの知識はゼロ。補ってもらうための人と資金集めが大変だった」。香り演出装置「ダイブモンスター」を使ったサービス「セントダイビング」の実現までを振り返り、郡社長はそう話す。 ダイブモンスターは、1台につき4種類の香りを出せる。既存の香りや調香師が作り込んだものを利用でき、濃度も調整できるなどシーンに合わせた使い分けが可能だ。これまでレンタルは200件、販売は約300台の実績。大劇場やアリーナのコンサート会場での利用が多い。 9日から17日まで草月ホール(東京都港区)で上演している「武士の献立」の香り演出も担当。舞台の左右に2台のダイブモンスターを配置し、ミカンと鰹節、バラの香りを演出している。 香り演出の活躍の場も広がりそうだ。 毎年1月に米ラスベガスで開催される世界最大のエレクトロニクスショー「CES2025」への出展も決まっている。米国を足がかりに海外進出に向けた動きを強めていく考えだ。11月15日まで幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催中の放送機器展「InterBEE2024」にも出展している。
電波新聞社 報道本部