真田広之が「何一つかなわない」と称賛した「日本一の斬られ役」 エミー賞18冠「SHOGUN 将軍」に受け継がれた“時代劇”の魂
福本さんに刺激をもらっていた
しかし、やはりハリウッドはスケールが違う。ロケ地となったニュージーランドでは一つの町を全て借り切り、スタッフや俳優、エキストラの泊まるホテルが足りないとなると、地元の民家を借り上げ、その住民にはアメリカのホテルを用意したという。セットとして組み立てられた日本の農村も縁側、障子、畳、布団に食器など、見事な再現度で用意されていた。 〈まあ、どうやってこんなに調べたのかって思うほど、とにかく資料をあたったみたいですね。日本人、ましてのこと、明治初期の武士の生活でしょ。普通の映画なら、適当にやってしまって、なんや中国やら韓国やらわからんようなセットでも作ってしまいがちじゃないですか〉(前掲書より) 撮影中、渡辺謙の英語のセリフで何度もNGが出た。渡辺はそこそこ英語を練習して撮影に臨んでいたが、それでも「ノー、ワンス・モア」と何度も言われたという。 〈日本人がしゃべる英語やから、完璧な英語である必要はないと思うんやけど、ハリウッドではそういう考え方はまったく通用しないんです。映画そのものが世界に配給されるんやから、英語のアクセントから発音、さらには台詞としての英語として、完璧でないといけないんだそうですわ〉(同)
「福本さんも指摘していますが、日本人の俳優がハリウッドへ行って一番困るのが、なんといっても英語力です。それもスクールで学ぶ英会話やビジネス英語をマスターするレベルではなく、アメリカ人が普通に話している会話を台詞にして違和感なく話すことができないといけないのです。エミー賞の受賞式で真田さんは日本語と英語で見事なスピーチを披露しました。演じるだけでなく、『ラストサムライ』での様々な経験が20年の時を経て、今回の栄誉につながったのだと思います」(前出・映画担当記者) 21年1月の福本さんの訃報に際し、真田はこんなコメントを残している。 「たゆまぬ努力、卓越した技術、謙虚なお人柄、何一つかなわない素晴らしい方でした(中略)デビュー当時、東映京都撮影所の予定表をチェックして、福本さんの殺陣があるセットをこっそり見に行って、刺激をいただいていました。ラストサムライの撮影時には還暦を迎えられながら、変わらぬ存在感と心意気を世界に知らしめて下さいました。数多くの共演作品の中で福本さんと闘い、斬られたこともありました。今となっては、“5万回斬られた男に斬られた男”というのが、私の誇りです。清三さんの志を受け継ぎ、日本の伝統美を絶やさぬ事が唯一、後輩に出来る御恩返しかと思われます」 デイリー新潮編集部
新潮社