真田広之が「何一つかなわない」と称賛した「日本一の斬られ役」 エミー賞18冠「SHOGUN 将軍」に受け継がれた“時代劇”の魂
「5万回斬られた男」
かつて、「日本のハリウッド」と呼ばれた時代劇の聖地、京都・太秦にある東映京都撮影所で斬られ役一筋60年。「日本一の斬られ役」「5万回斬られた男」と呼ばれた俳優がいた。2021年に亡くなった福本清三さん(享年77)。映画全盛期の1958年に、東映京都撮影所の大部屋俳優となり通行人や死体役を経て、斬られ役になった。 「時代劇だけでなく、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズでも抗争で殺されるヤクザを好演。狭い部屋で銃で撃たれ、跳ねあがって死ぬシーンはあまりにも有名です。1992年には、関西の人気番組『探偵! ナイトスクープ』で、“よく時代劇で見かけるあの斬られ役は誰?”という依頼から、福本さんが取り上げられ、注目が集まりました。強面ですが、素顔は優しい人柄というギャップも人気を集めました」(在阪テレビ局関係者) 福本さんも、「ラストサムライ」に出演しており、当時の撮影秘話をいくつか残している。出演のきっかけは、福本さんのファンクラブの女性が「ラストサムライ」製作のニュースを新聞記事で読み、日本側のキャスティングディレクターに福本さんの資料を送り、出演を直談判したことだった。 〈それからが大変です。何しろ、あっちの映画はカツラをつけんのですわ。全部、自分の毛でやるんやから。(略)なんでも、カツラをかぶると、ほら、羽二重が顔に出るじゃないですか。ええ、カツラをかぶる前に髪をまとめるための布のことです。あれがハリウッド映画は、どうも気にくわんのやそうです。だから、すべて自毛でいくと決まっていたんやそうです。聞いてまへんがな〉(福本清三 聞き書き/小田豊二『おちおち死んでられまへん―斬られ役 ハリウッドへ行く―』2004年・創美社刊より) 福本さんはパンチパーマだったが、とにかく髪の毛を伸ばし放題にし、ヒゲもそらなかった。というのも「ヒゲを勝手に剃ってはいけない」という契約があったからだ。それどころか、髪の毛の一本一本まで決していじってはいけない、それをいじるのはメーキャップ・アーチストの仕事だから、というわけである。 演技でも日米の違いがあった。作中での福本さんの役は、トムの警護役で無口で感情を出さない侍。あるシーンで、髷を切られた侍が村に帰ってきて、福本さんの前を通り過ぎるという場面があった。福本さんは驚いた表情をした。侍が敵に髷を切られた、それを見て驚くのは普通だろうと思ったからだが、監督は「そんな顔はしなくていい」。テイク2で驚きを抑えてみると「ノー!」。テイク3では侍のザンバラ頭に少し目をやるだけにしたが、これも「ノー!」だった。 〈どうも考えてみると、アメリカっていうところは、我々日本人が考えているリアクションがわざとらしく映るんですねえ。(略)ムムッ、にっくきヤツ! なんて、眉間に皺を寄せたりすると、かなり変な演技に思われるようです。そんなにわざとらしく憎まなくてもええんやそうです。本当に憎いヤツを目の前にしたらそんな顔をしないっていうわけです。リアリズムを大切にするとでも、いうんでしょうかね〉(同) そして最も苦労したのが殺陣だった。 〈日本は引いて斬る。そのために日本刀は反っているんや。直刀の向こうははたく。合戦シーンではプロテクターつけさせて、竹光じゃなくジュラルミンの刀で「思いっきりシバケ」ですわ。どうしても納得いかんところは直してもらいましたけど〉(朝日新聞2010年1月28日付) 撮影では通訳が殺陣のことをあまりうまく説明できず、なんどもやり直したという。「刀というものは、体に当てるのではなく、引いて斬る」ことは伝わらなかったようだ。