自賠責紛争処理機構が行っていた「被害者切り捨て」、違法行為を改めさせた弁護士の戦い(後編)
青野 被害者からの紛争処理申請が多いということは、それだけ損保料率算出機構の判断に不満のある被害者が多いことを意味しているのですから、本来、中立公正な機関であるべき紛争処理機構は「もっと充実した審理をしよう」と奮起すべきです。 やるべきことは、多数の事件を解決すべく、予算や人員を強化するよう政府や損保業界に働き掛けることのはずですが、それとは逆に「事件を減らしたい。ウチでやらなくても、損保料率算出機構がちゃんとやるからいいだろう」という発想で、自分たちの存在意義を否定するような運用をはじめてしまいました。この点に本質的な問題があるように思っております。 ■ 運用変更の周知を 柳原 本当に、青野先生にはよくここで食い止めてくださったと感謝しております。 今回の運用変更について、弁護士会などに告知したかを紛争処理機構にたずねたところ、「日弁連交通事故相談センター本部とも打ち合わせを行っており、広く弁護士の方々に周知されるような対応を検討しています。また、弁護士以外で申請代理人として紛争処理申請に関わる可能性のある士業の団体(司法書士会、行政書士会)の周知についても、今後取り組む予定です」との回答がありました。 青野 その点は、民事訴訟の和解でも「弁護士会等を通じて、利用者に今回の問題を周知させる」という和解条項を入れたので、実行してくれたものと思います。 業務規程の文言を読めば、誰が見ても「新証拠を受け付けない」などという運用が、規程違反であることはわかるのですが、弁護士の間でもこの問題はあまり知られていません。 もし、過去に、紛争処理機構に新証拠の提出が認められずに不利益を受けた方がいたら、上記のフリーダイヤルに相談されることをおすすめします。 私だけでは、ここまでの成果は難しかったと思います。この件については、交通事故の被害者団体も問題視して、2023年8月に、交通事故の被害者団体4団体の連名で、荒井ゆたか衆議院議員を通じて、国土交通省に申し入れをしています。 その後、衆議院国土交通委員会の神津たけし議員も、この問題に関心をもってくださり、2023年11月10日の国会審議では紛争処理機構の運用の問題点について国土交通省に質問をしてくれました。機構はもともと被害者の声で設立された団体ですから、こうした被害者からの意見は、無視できなかったのだと思います。 柳原 さまざまな方のご尽力があったのですね。この記事が弁護士や被害当事者など多くの方の目に触れ、万一誤った判断がなされている場合は、是正されることを祈りたいと思います。ありがとうございました。
柳原 三佳