自賠責紛争処理機構が行っていた「被害者切り捨て」、違法行為を改めさせた弁護士の戦い(後編)
柳原 青野先生のご主張が全面的に認められたということですね。すごいことです。 青野 アクションを起こした成果はあったと思います。この件についてはすでに、裁判で和解が成立する前に国土交通省から紛争処理機構に対して行政指導が行われており、機構のWEBサイト内「理事長メッセージ」にも掲載されています。また、専務理事のメッセージの中でも、今回の運用改善の経緯に触れ、それに伴う相談対応窓口の電話番号も掲載されています。 ■ 過去にさかのぼっての救済も 柳原 私も紛争処理機構のWEBサイトを確認しましたが、『不利益を受けた可能性がある申請者の方を対象に、自賠責保険・共済紛争処理機構として対応が可能かどうかのご相談を無料電話(0800-111-2966)にて受け付けています』と、はっきり記載されています。 つまり、これまで切り捨てられ、適正な保険金を得ることができなかった可能性のある被害者を、過去にさかのぼって救済しますということですね。 青野 そのとおりです。ただでさえ辛い思いをされている交通事故の被害者が、紛争処理機構の誤った対応によってさらに長期にわたって苦しめられ、救済されていないとすれば、大変深刻です。 柳原 自賠責による後遺障害の等級認定は、結果的に任意保険の支払いにも影響を及ぼし、トータルの損害賠償にも大きな差が出るのではないでしょうか。 青野 はい、かなりの差が出ます。結果的にAさんの場合は、他の後遺障害とあわせて「併合9級」の認定を受けることができましたので、その後、民事訴訟も提起し、自賠責保険と任意保険から合計で3300万円ほどの賠償金を受領しました。 柳原 もしあきらめていれば、泣き寝入りですね。
■ 損保業界出身者が仕切っていた紛争処理機構 青野 私がこの裁判等を通してあらためて知ったのは、紛争処理機構の受付等の事務を取り仕切るトップ(専務理事)が損害保険料率算出機構の出身者の指定ポストで、しかも申請の受付等を担当する事務局員の多くは、保険会社や損保料率算出機構の出身者だということです。 このことは、被害者の利益を軽視した今回の運用と無関係ではないと思っています。 設立時の国会審議では、「損保業界はカネは出すが運営には関与せず、中立公正な組織にする」という説明でしたが、実情はかなり違うようです。 柳原 被害者の異議申し立てを却下すれば、最終的には任意保険からの保険金支払い、つまり損保会社としての損害を抑えることにつながります。私はかつて、その理不尽さを追及したわけですが、結果的に四半世紀が過ぎても損保業界の体質は変わっていないような気がします。 私は、今回の件を受け、なぜ2001年の発足当時の理念を失い、このような運用を行ったのかを紛争処理機構に直接質問したところ、以下のような回答が返ってきました。 <紛争処理機構の回答> 平成15(2003)年度以降、紛争処理申請件数は増加の一途をたどり、平成23(2011)年度には1000件を超える規模となりました。この間、担当者の増員や紛争処理委員の人数増員を行うなどの対応を行いましたが、件数増加のスピードには追いつくことができず、平均処理日数が次第に悪化をしていく状況が続きました。 そのような状況において、紛争処理業務の破綻を回避し、業務の適正な遂行を維持していくためには、(1)自賠責未提出資料のある案件は、自賠責保険が当該資料を踏まえて再度判断することで、直ちに紛争が解決する可能性があること、(2)自賠責保険への異議申立後に紛争処理申請をしていただくことで「自賠責未提出資料」が受け付けられ、申請機会を直ちに奪うことにはならないことを踏まえ、自賠責保険での再度の判断を受けるよう教示することが迅速・適正な紛争解決につながるものと判断し、平成25年11月にホームページの記載を改定し、運用を変更しました。 ******