堂本剛だから伝えられる 映画『まる』のロスジェネ世代へ向けた人間讃歌
今まで描いてきた過去、これから描く未来
堂本が「そこにピークを持っていくつもりで取り組んだ」と話しているのが、終盤で沢田が涙を流すシーンだ。穴の開いた壁越しで、隣人で売れない漫画家の横山(綾野剛)から「お前はなぜ絵を描くの?」と問われると「分からないです。人として、根源的に_どうしようもない欲。自分を生きるという身勝手な自我」 「例え役に立たない2割の蟻の方だったとしても、自分が絵を描きたいっていう気持ちは誰にも止められないから」と、時折言葉を詰まらせ、涙ながらに話すこの場面には、沢田がこれまで抱え込んでいた苦しさややるせなさがすべて詰っていて、見ている者の胸にも迫るものがある。 それを隣の部屋で静かに聞いていた横山が手でリズムをとるのだが、それはまるで沢田の背中を“トントン”としているようで「お疲れ お帰り お休み」とかける言葉がなんとも優しく、迷い、悩み疲れた沢田を温かく包み込んでいる。 見る人によって考え方や捉え方がそれぞれある作品だが、自分と一番近い価値観や悩み、苦しみを抱えているキャラクターを見つけてみるのもおすすめだ。「描きたいもの」や「表現したいもの」など、確固たる「自分」はあるけれど、「いつか自分も沢田のように、ただ言われたことをするだけのロボットになってしまうのでは」という不安を抱え、貧困格差を訴える矢島。 周囲の人たちと波風を立てないよう、できるだけ穏便に過ごすことを心がけて、言いたいことを飲み込むなど、普段口には出せずにいる自分の中のモヤモヤを、それぞれが代わりに叫び、訴えてくれているように感じる。 特に感情移入したのが、夢を諦めきれず、いつまでも「何者」になれない自分を嘆く横山が、「人の役に立つ人間になりたいの。漫画家として成功して認められたいの。でもこのままじゃダメな2割になっちゃう」と、胸の内を沢田にぶつけるシーンだ。横山のように、鳴かず飛ばずの自分の将来に不安や恐怖を抱え、焦燥感にかられている人は少なくない。そんな横山に「役に立たないとダメなんですかね?」と沢田が言ったこの一言が、本作の核心をついていると思う。 何かが“まるっ”と解決するわけでも、劇的なラストを迎えるわけでもない。夢や希望だけでは生きていけない現実も描かれているが、決して悲観的ではない未来を提示している。思うようにうまくいかなかったり、同じ失敗を繰り返したりしたとしても、「それでもいいじゃん。ちゃんとここまで生きてきたんだから」と肩を並べて一緒に歩んでくれる「友人」のような作品だと感じた。迷うことも、悩むことも悪いことではない。作中で、柄本明演じる「先生」の言葉を借りるなら「ジタバタ、OK」なのだ。
文 / 根津香菜子