堂本剛だから伝えられる 映画『まる』のロスジェネ世代へ向けた人間讃歌
〇について 円、そして縁
沢田が描いた「〇」は「円相」と呼ばれ、禅における書画のひとつで、図形の円を一筆で書き上げたもの。作中、沢田は何度も「〇」をフリーハンドで描くのだが、その形や筆の運びに注目してみてほしい。最初の「〇」は、ただ無心に蟻を囲むことだけを考え、その結果パーフェクトな「〇」を描き出した。それが後に称賛され、巨額な金額を提示してくるうさんくさいアートディーラー・土屋(早乙女太一)から「1枚100万円で円相を描いてほしい」と依頼をされる。沢田は「100万」という額に戸惑いながらも何枚か描いてみるのだが、形が歪だったり、どこか投げやりに描いていたりと、土屋や野心的なギャラリーのオーナー・若草(小林聡美)が納得するものが描けずにいた。 さらっと描いた「〇」が社会現象にまで発展し、自分の知らないところで一人歩きすることに苦しむ沢田だが、映画の後半、屋上でキャンバスに向かい、黄色や青色を使って描く「〇」の筆には迷いがなかった。 芸術やエンターテインメントは、特に評価の基準がわかりにくいものだと思う。同じ作品を見て「これは素晴らしい!」と絶賛する人もいれば、「よく分からない」と思う人もいて、「みんなが良いというから、これは素晴らしいものなんだ」と思う人もいる。「円相」は、悟りや真理、仏性、宇宙全体などを円形で象徴的に表現したものとされ、その解釈は見る人に任される。それはまさにこの作品とも合致する点であり、芸術作品への評価や見方に対するひとつの考え方でもあると思う。 円相をはじめ、作中には仏教に関連した言葉や思想も取り入れられている。作中、沢田が「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす」と『平家物語』の冒頭をつぶやくのだが、「諸行無常」、「盛者必衰」とは仏教の教えで、どんなに栄華を極めたとしても必ず終わりがくる、この世の無常を説いた言葉だ。奈良県の出身で、2010年から京都の平安神宮で奉納演奏を行うなど、何かと仏教に縁がある堂本と作品が持つ世界観が、違和感なく溶け込んでいる。 ミャンマー出身のコンビニ店員・モー(森崎ウィン)の話し方をからかう客たちが去った後、「あいつらがバカでごめん」という沢田に対して、モーが「人間、まるくないと」と笑顔で答えるやりとりがある。 モーの口癖である「福徳円満」とは、精神的・物質的ともに恵まれている様であり、「円満具足」は十分に満ち足りて、少しも不足のないこと。つまり「私は今のままで十分恵まれています」といった意味合いがあると捉えると、仏教の国であるミャンマー出身のモーは、この教えを自分に言い聞かせるように、なだめるように言っている気がした。外国人差別や貧困格差など、社会問題も随所に散りばめられていて、荻上監督が現代の社会に向けた刃がそこかしこに盛り込まれている。