「マツダさんに負けたくない」豊田章男社長が口にしたクルマ愛と危機感
常に危機感と共にある“巨人”トヨタ
トヨタの面白さはどんなに旗色が良くても常に「危機感」とともにあることだ。トヨタ・ダイハツ・スバル・マツダ・スズキという1600万台にも及ぶ弩級(どきゅう)のアライアンスを構築してなお「やられる」可能性を恐れている。それがトヨタの真の強みだ。 そういうメンタリティの中では、トヨタがやればワトソンに勝てるというような夜郎自大な予測を彼らは立てない。もちろんTRIを設立して、真剣に自社技術でそれを越えようともするし、越えられなければ仲間にしようと柔軟にも考えている。それでもまだ不安なのだ。 トヨタは考えた。「全く新しい業態のプレーヤー」に対して自らの最大のアドバンテージは何か? そして豊田社長はこう述べる。「私たち自動車会社は、『とことんクルマに拘らなくてはならない』と思います。今の私たちに求められているものは、全ての自動車会社の原点とも言える『もっといいクルマをつくりたい』という情熱だと思います」 昨今、巷で語られる馬鹿馬鹿しい話がある。曰く「電気自動車になれば部品点数が減って、垂直統合から水平分業になる。エンジンという複雑な部品が要らなくなったことで、自動車メーカーへの参入障壁は下がり、コモディティ化して旧来の自動車メーカーのアドバンテージはなくなるのだ」。 エンジンのOEM供給などこれまでもあったことだ。例えばスポーツカーメーカーとして名高いロータスという会社がある。ロータスは過去から現在に至るまで、ほとんどのクルマでエンジンは外部から供給を受けてきた。スポーツカーにも関わらずである。ちなみに現行エリーゼにはトヨタのエンジンが搭載されている。しかしそれでもロータスは多くのスポーツカーファンから敬意を持って迎えられているのである。何故ならば、「走る・曲がる・止まる」というクルマの基本能力が尊敬に足るからだ。エンジンだとかモーターだとか、そんなことは些細な話で、一台のクルマとしていいものであるかどうかこそがクルマにとって大事なのである。 だからこそ、84年間クルマを作って来たトヨタがこれまでのトヨタ車を否定してまでも「もっといいクルマづくり」を掲げている。それは終わりのない改革だ。プロの調理人と同じ材料を買ってきたら、プロの料理と同じものができるかどうか考えてみると良い。