「マツダさんに負けたくない」豊田章男社長が口にしたクルマ愛と危機感
「未来のモビリティ」に重要なビッグデータとAI
現在、世間で知られている最も進んだAIはIBMの『ワトソン』だろう。もちろんAIは万能ではないが、得意な領域においてはすでに人々の予測を遙かに上回ることができる。チェスのチャンピオンに勝ったり、将棋の名人に勝ったりするのはあくまでも宣伝に過ぎない。2014年にIBMの相談役、北城格太郎氏にインタビューした時、筆者はAIの可能性に驚愕した。 ワトソンは必ずしも論理的ではない質問を受けて、文脈を理解し、最も適切な答えを出すシステムだ。例えば病気のさまざまな症状を聞くと、常に最新の論文データを読み込んで文脈を理解したワトソンは「こういう可能性がある」ということを医者にサジェストすることができる。病気の診断は一例に過ぎない。ある人に適正な金融商品を探し出すファイナンシャルプランナーのような仕事もできる。旅行プランの提案だってできるだろう。要するに膨大かつリアルタイムに更新され続ける判断材料から、現時点で考えられる最良の答えを探し出すことを得意としているのだ。しかもIBMはスタートアップ企業にこのワトソンを利用させるところまで考え始めていた。 日本の自動車保有台数はいま約8000万台だ。これらのクルマが日本中の道路を走り回った結果、何時どこで急ブレーキを踏んだかとか、いまどこを走っているクルマのワイパーが動いているかとか、ある区間を最も早く移動したクルマはどういうルートを通ったかとか、そういう膨大なデータが車車間通信を経由してビッグデータになる。従来は人が経験的に処理していた、こうしたデータに基づいてAIが判断する時代が間もなくやってくるのだ。今後自動車メーカーはこうした領域の技術も求められる。ビッグデータとAIは「未来のモビリティ」の重要な核のひとつである。 トヨタはすでにAI研究部門として2016年に『トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)』を設立し、先月は1億ドルを投じてベンチャーキャピタルファンドを立ち上げた。巨人トヨタは決してあるジャンルを外部に丸投げにしない。しかし前述の豊田社長の発言にもあるように、勝ち負けの対立軸だけでこれを見ない。必要があれば「新しい仲間を広く求め、競争し、協力し合っていく」というのだ。