イングランド代表はなぜ優勝できなかったのか。スペインに流れが傾いた、“予想外”の出来事とは【ユーロ2024分析コラム】
UEFAユーロ2024(EURO2024)決勝、スペイン代表対イングランド代表が現地時間14日に行われ、スペイン代表が2-1で勝利。史上最多となる4度目の欧州王者に輝いた。試合は85分まで1-1の同点だったが、最後にスコアを動かしたのはスペイン代表だった。力がある両チームの間にあった差とは何だったのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】ユーロ決勝 ハイライト
●スペイン代表が史上最多4度目の優勝を飾る ドイツでおよそ1ヶ月間行われてきたユーロ2024(欧州選手権)はスペイン代表の優勝で幕を閉じた。 まず、今大会を総括すると、全体的にゴールが少なかったのが印象的だった。2021年に行われた前回大会と比較すると142ゴールから117ゴールへと大幅に減少している。 その理由として考えられるのが、全体的にレベル差が縮まっていること、そして活動期間が短い代表チームでは攻撃的な戦術よりも守備戦術の方が落とし込みやすいことが考えられる。特に決勝トーナメント以降はほぼ全試合が接戦で、ラウンド16から決勝までに行われた13試合のうち11試合が、1点差、もしくはPK戦で決着がついていた。 スペイン代表とイングランド代表の決勝も今大会の傾向通り、1点で勝負が決まる接戦となっている。1-1で迎えた86分に勝ち越しゴールを奪った前者が史上最多4度目の優勝を飾った。 ともに決勝へと進出していることから実力があるチームというのは明らかであり、何が彼らの勝敗を分けたのだろうか。 ●前半に好感触を得ていたのはイングランド代表 前半終了時点で好感触を得ていたのは、イングランド代表の方だろう。 イングランド代表のガレス・サウスゲート監督は「戦術がない」「選手を並べているだけ」と言われがちだが、守備に関しては相手チームに合わせて準備をしている。スペイン代表との試合に向けてはフィル・フォーデンをロドリにマンマークで当てることで、相手のキーマンにあまり仕事をさせなかった。 スペイン代表の最大の武器であるニコ・ウィリアムズとラミン・ヤマルの両WGに対しては、カイル・ウォーカーとルーク・ショーの両SBが粘り強く対応。彼らのところで数的優位を作らせず、前半からギア全開で試合に臨む傾向の強いスペイン代表を今大会で最少となる5本のシュート(枠内0本)に抑えることができたのは上出来な結果だった。 途中交代からの選択肢が多いイングランド代表からすれば、いかにスコアレスの時間を長くするかが勝負のカギであり、逆にスペイン代表は両WGの代わりとなる選手がいないことから試合を“塩漬け“にされる方が嫌な展開になるのは明らかだった。 両チームともに枠内シュート0本と決定機が訪れないまま前半が終了。イングランド代表の方が狙い通りの展開に進めていたが、先に試合を動かしたのはスペイン代表だった。 ●スペイン代表が先制できた理由 前半に機能していたイングランド代表の守備に隙を生み出したのは“予想外の交代”だった。 スペイン代表は前半に今大会のMVPにも輝いたロドリが怪我のためにベンチに下げざる負えなくなり、代わりにマルティン・スビメンディを投入した。これにより布陣を[4-3-3]から[4-2-3-1]へと変更。ロドリのワンアンカーからスビメンディとファビアン・ルイスのダブルボランチへと選手の配置を変えた。 まさに「怪我の功名」とはこのことで、イングランド代表からするとロドリの交代は想定外だった。システムが変わったことで前半は整備されていたプレスの掛け方に混乱が生まれ、後半開始から1分10秒後にマークのズレを突いたスペイン代表が先制に成功した。 このゴールでキーマンとなったのが右SBのダニエル・カルバハルだ。ジュード・ベリンガムが中途半端に前に出ていった背後を取り、ショーの背中を取って内側のレーンに抜け出したヤマルにダイレクトのパスを出した。彼のこのワンプレーでイングランド代表は完全に後手に回り、最後は大外でフリーだったニコ・ウィリアムズに仕留められた。 後半開始直後に失点を喫したイングランド代表だったが、オランダ代表との準決勝で結果を残したオリー・ワトキンスとコール・パーマーを投入し、73分に後者のゴールで同点に追いつく。 イングランド代表はこれまでの試合と同じように試合を振り出しに戻したが、同点に追いついたことによる采配変更で、再びスペイン代表に隙を与えてしまう。 ●試合の明暗を分けたサウスゲート監督の采配ミス 試合の明暗を分けたのはガレス・サウスゲート監督の消極的な采配だ。内容としては延長前半直後に勝ち越したスロバキア代表とのラウンド16と一緒で、同点や勝ち越しゴールの直後に保守的になってしまう彼の癖が出てしまった。 73分に同点に追いついた直後にイングランド代表の指揮官は、自陣で守る際に右WGのブカヨ・サカを右WBに下げる「3-4-2-1」へとシステムを変更。自陣でブロックを敷いてカウンターを狙いたかったのかもしれないが、ハイプレスでペースを握り返し、同点ゴールに追いついた過程を踏まえると、その勢いで勝ち越しを狙いたかった。 しかし、撤退したことで再びペースはスペイン代表が握り、86分の失点シーンはサウスゲート監督の采配が悪い結果に出た。敵陣でのスローインの際にイングランド代表の最終ラインは撤退への意識が強すぎるあまり、ラインを上げておらず、デクラン・ライスとジュード・ベリンガムのダブルボランチもかなり低い位置にいた。 一方の前線はパスの出し先を限定するようなプレスを掛けていないが、前に残っているという中途半端な形に。その結果、イングランド代表の陣形はスローインというリスタートの状況だったのにも関わらず、かなり中盤が間延びしていた。 この隙を突いたスペイン代表はCBのアイメリク・ラポルテから一列前のファビアン・ルイスに縦パスを通すと、広大なスペースを活かして簡単に前進。ダニ・オルモとミケル・オヤルサバルにもノープレッシャーでパスが通った。 逆にイングランド代表の守備はズルズルと下がるだけで、スペイン代表の選手に全くプレッシャーをかけることができなかった。 個人の能力の高さで解決することが多いイングランド代表は、相手に隙を与えてしまう結果となったが、対するスペイン代表は時間帯や状況によって整備されたハイプレスとブロックを敷いた撤退守備を使い分けており、チームとしての完成度の差は歴然だった。 スペイン代表の優勝を心から祝したい。かつてのように保持だけでなく、4局面すべてにアプローチしている彼らこそ欧州の頂点に値するチームだった。 (文:安洋一郎)
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