「出生届を出したら飛び降りて死ぬ」…「予期せぬ妊娠」で絶望していた40代女性が「スッピン、部屋着」のまま向かった先
「これからもお節介おばちゃんやります」
現在、佐藤さんのモチベーションの根源には、かつての自分と似た悩みを抱えた母親の表情が明るくなってくることがあるという。 「私は、育児を誰かに頼っていいと知ることで、幾分か楽になることができました。孤独に気張っているお母さんたちには、まず最初にそれを伝えたいですね。漠然と不安を抱えて怖がるのではなく、多くの味方の手を頼って子育てをすることを知ってほしい。私たちは育児をする人たちの味方ですし、子どもを見る目は多いほうが愛情も多くなって成長しやすいと私は考えています。 こども食堂というと、どうしても貧困と結びつけて考えがちなのですが、実際は経済状況にかかわらず育児は悩みが尽きません。塞ぎがちになったときにふらっと立ち寄って利用して、気が軽くなる場所になればいいなと思っています。誰もが繋がれて、温かい心と優しい心が響きあい、ぬくもりを感じれる親子の居場所。ゆえに、『ぬくもりスペース ぬくぬく』。そんな場所をこれからも維持していきたいと考えているんです」 眩しいばかりの佐藤さんの微笑みに対峙すると、壮絶な過去は遠い昔のようにさえ錯覚する。産前産後の激動を駆け抜け、彼女は本当の笑顔を取り戻した。だがどこかに、今も笑顔を失ったままの女性が多数いる。 人を育てることの重圧、「母は強し」の呪縛、家族の問題は家族で解決せよとする古き価値観が、どれほど女性を蝕んできたか。ひいてはどれほどの家庭崩壊を招いたか。他人の家庭を「ヨソ様」として干渉しない無責任と不作為によって、子どもの幸せはたやすく霧散する。 取材の最後、佐藤さんは「これからもお節介おばちゃんやります」と破顔一笑した。うざがられてもいい、から回って笑われても問題ない。かつて「死にたい」を繰り返した自分に出会って、笑顔を手繰り寄せられるなら。そんなぬくもりが日本中に灯る日を願って、佐藤さんは今日も子どもたちに「おかえり」を投げかける。
黒島 暁生(ライター・エッセイスト)