「英語は単なるツール」。全国が注目する公立校は、どう「勉強と現実社会」をつないだのか
高い英語力を支える独自の授業
そしてもう一つ、MOISでの学びを紹介するうえで切り離せないのは、高いレベルでの英語学習です。MOISでは、中学生相当のうちにほぼ100%の生徒が英検®準2級レベル以上の英語力を身に付け、模試の成績も高いレベルを保っていると言います。 「英語は目的ではなく単なる手段、ツールです。できないよりはできたほうが便利だよね、というスタンスで英語を使い、さまざまな教科を学びます。そのなかで必然的に英語力が身についてくるのです」 実施しているのは、冒頭でも紹介した「English Inquiry」という学習。英語ネイティブ教員らによるイマ―ジョン教育(他教科の授業を英語で行うこと)のもと、各教科で学習した内容を互いに関連付けて学ぶことで、異文化の世界観を知り、縦横無尽に知識を広げることができます。 また、通常の英語の授業でも、入学直後から外国人教師も日本人教師も日本語は使わないとのこと。さらに、毎朝15分の「All English」の時間には、日記、手紙、プレゼンなど自分で決めたテーマに英語で取り組みます。MOISの1日は英語で自分を表現する15分から始まり、それが日々積み重ねられていくわけです。
「青くない青春」が、新たな教育への原動力に
数々のチャレンジングな教育を推進する関田氏ですが、そこには自身が高校生のときに感じた「つらい気持ち」が反映されていると話します。 当時関田氏が通っていたのは、学力県内トップクラスの進学校。日ごろから勉強に励み、常に好成績を収めていましたが、それは楽しさからではなく「大学で本当にやりたい勉強をやるためには、今つらいのはしかたがない」という気持ちが根底にあったそうです。 そして、受験を控えた3年生の夏のある日のこと。 「18歳という青春真っただ中なのに、全然青くない。灰色だ。なぜ灰色なのだろう、と愕然(がくぜん)としてしまったのです」 灰色の「なぜ」が示すのは、なぜ勉強するんだろう、なぜ生まれてきたんだろうという気持ち。この思いはモヤのように心に広がり、教育のそんな状況を変えたいという理想と、教員になりたいという希望の芽生えにつながったと言います。 その後関田氏は、大学で学校経営や教育行財政などを含めた教育学を修め、念願の教員に。自身の「青くない青春の原体験」を抱きながらも、現場では思いと反対の指導をせざるを得ない時代もあったと言いますが、時を経て、MOISの構想に携わる機運に乗じ、理想と経験、知見の集大成となる教育を実現しています。 MOISの取り組みは、公立学校が行う意義と難しさ、その両面があると関田氏は語ります。 「公立ならではの低廉な授業料は、通う側のメリットになりますよね。他方、授業料を一方的に変更することはできませんし、IB教員の養成や国際理解のプログラムを経た教員を、私立校のようにスカウトできないジレンマもあります。 ただ最近は、さいたま市の採用試験の変更などもあって、本校の存在を意識して採用試験を受けていただける人も増えたことで、人材獲得の困難さは解消しつつあります」