錦織圭は少年時代に「忍び込みました」 全仏「赤土コート」の思い出を振り返り、バツが悪そうに苦笑い
【パワーで押し勝てない日本人の課題】 ジュニアの育成方針にさらに一歩踏み込んだ時、世界における昨今の男子テニスの趨勢(すうせい)も深く関わってくるだろう。それは錦織自身が今現在、直面している葛藤とも重なるからだ。 この2年間、ケガでツアーを離れる時間の長かった錦織は今季、ホルガー・ルネ(デンマーク/21歳)やステファノス・チチパス(ギリシャ/26歳)らトップ10経験者の若手とプレーするなかで、身をもって実感したことがあると言う。 「若い選手......たとえば、上海マスターズで対戦した中国のシャン・ジュンチェン(19歳)や、ルネだったりチチパスもそうですが、基本みんな、球が速いんですよね。力があって、それでいて正確。 特に(ヤニック・)シナー(イタリア/23歳)や(カルロス・)アルカラス(スペイン/21歳)はまた一段と速いと思うので、それに対してどうしようかなというのは、日々ちょっと考えています。僕もスピードで勝負したほうがいいのか、それとも、かわす方法があるのかどうか。それはまだ、自分でもわかってないです」 そう現状を把握したうえで、未来については、こう続ける。 「これからは子どもたちも、体を強くしていくべきなのか。特に一般的な日本人の体型だと、パワーで押し勝てることは少ないと思う。そこをどう工夫していくかは、たぶんみんなの......特に日本人やアジア人の課題になっていくのかなと、最近特に思っています」 目の前の勝敗のみに固執するのではなく、物事の本質をとらえ、長期的視野を持って未来に進む──。それは錦織自身が、ローラン・ギャロスに忍び込み、スタンドの上段からセンターコートを眺めたその日から、今も変わらぬ信条だろう。 そのような青写真を描きながらも、「常に小さなゴールを自分のなかに据え、それに向かって一日一日、積み重ねていくことを心掛けている」とも彼は言った。 そんな錦織が今現在、掲げる「小さなゴール」は、まずはトップ100への復帰。
「一回トップ100に入ったら、落ち着くでしょうね。今のテニスができていれば、たぶん、もうちょっと上には行けると思うので、トップ50だったり、あともう一回、大会で優勝するとか......そんな感じですね、次と、その次の次の目標は」 穏やかにそう語る表情には、静かな自信もにじんでいた。 視線は遠く、足は地に着けながら、錦織は再び頂を目指して歩みを進める。次の世代がその背を追い、残した足跡に続いてくれることを、願いながら──。
内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki