フィリピンの韓国人社会と長老派教会の老牧師
フィリピンを訪れる外国人観光客の4人に1人は韓国人
ドゥマゲティという地方都市の郊外に韓国人教会やコリアン・タウンが存続できるほどフィリピンの韓国人社会は裾野が広いのだろうか。 観光は外国への出稼ぎと並びフィリピンの重要な外貨収入源である。2023年の外国人観光客は合計550万人でGDPの8%を占めている。同年の国別内訳は韓国が144万人で堂々の断トツ1位。以下、米国90万人、日本30万人、中国24万人と続く。そしてフィリピン政府は2024年には外国人観光客合計820万人を想定している。 他方でフィリピン在留韓国人は2021年時点で3万3000人(フィリピンに帰化した朝鮮半島出身者を含めると11万人)。同時点で在留日本人は1万6000人。人口比で韓国は日本の4割ほどなのでいかに韓国人居住者が多いか理解できる。邦人は半数以上がマニラ首都圏に集中しているが、韓国人はマニラ以外にも広く分散している。
在フィリピン35年の韓国人老牧師
3月29日。韓国教会の近くの中華食堂でレッドホース・ビールを飲んでいたら近くのテーブルに常連らしき御仁がいた。日系人のようにも思えたので声をかけたら韓国人であった。 彼、李文善(イ・ムンソン)さんは韓国教会の牧師だった。李牧師は韓国江原道出身。1945年生まれの79歳。韓国の長老派教会から35年前にフィリピンに派遣されたという。 李牧師は1989年に44歳の時にフィリピンに派遣された。1988年に韓国では盧泰愚大統領が就任。韓国は朴正熙大統領の下で漢江の奇跡と言われた経済成長を遂げて、さらに1988年にはソウル・オリンピックを成功させている。日本は1989年に昭和から平成に時代が変わった。 日本ではあまり知られていないが、韓国は人口の約40%がキリスト教徒である(ちなみに韓国社会のキリスト教会については『韓国社会に乱立する教会の信者争奪戦』拙稿ご参照)。残りが仏教と儒教。キリスト教徒の内訳はプロテスタント60%、カトリックが40%。朝鮮戦争のあと米国のプロテスタント系教団が熱心な布教活動を行ったことが背景にある。なかでも米国長老派教会がその中心であった。 韓国が豊かになり韓国長老派教会は、貧困を抱えるフィリピンにミッションを送ることになったというのが李牧師の赴任に至る背景のようだ。フィリピンは400年近いスペイン植民地時代のレガシーで国民の90%近くがカトリックである。そんな環境で李牧師は赴任の2年後の1990年に韓国教会を設立した。 現地人の信者が増えて韓国教会が手狭になったのでその後バス通りに面したフィリピン人向けの2階建ての教会を建設して、現在の韓国教会の建物を韓国人信者専用の教会にしたという経緯らしい。 ビールを飲みながら話を聞くと英語はおろかビサヤ語も堪能のようだ。韓国の神学校を卒業してフィリピン赴任後は20世紀初頭に開学したプロテスタント系名門大学であるドゥマゲティ市内のシリマン大学で神学修士課程を修了。異国の地で布教活動に挺身する李牧師の話を聞いて東洋への布教に一身を捧げた聖フランシスコ・ザビエル(現在の教科書ではハビエルと表記)を思い出した。