F1快挙の裏側。なぜホンダは13年間も優勝できなかったのか?
準備不足で臨んだ復帰初年度の2015年、ホンダが製作したPUはトラブルを連発させただけでなく、性能面でもライバルに大きな差をつけられ、予選で一度もQ3(トップ10以内)に入ることができなかったほどだった(この年、予選で一度もQ3に進出できなかったのは、マクラーレン・ホンダとマルシャだけ)。 その後もマクラーレン・ホンダはなかなか上位争いができず、2017年限りでパートナーシップを解消する。マクラーレン・ホンダという往年の名コンビが決裂した最大の原因が、ホンダのパフォーマンス不足にあったことは事実だが、マクラーレン・ホンダが栄光を取り戻せなかった原因のすべてが、ホンダにだけあったわけではないことは、その後の両者の歩みを見れば、わかる。 マクラーレンと関係を解消したホンダは、2018年からイタリアのトロロッソと組み、第2戦バーレーンGPで4位を獲得。マクラーレン時代の最高位をいきなり上回る活躍を披露した。対照的にマクラーレンはホンダとの関係を解消した後も、4位以上の成績を挙げられないままとなっている。じつはマクラーレンもまたホンダとパートナーを組んでいた3年間は低迷の真っ只中にいて、マクラーレンは2013年から現在まで、未勝利レースが続いている。 一方、今年からホンダがパートナーを組んでいるレッドブルは、2009年から現在まで1シーズン(2015年)を除いて、毎年優勝している強豪チーム。開幕戦ではいきなり表彰台を獲得していた。つまり、ホンダが今年、13年ぶりに優勝できた最大の要因は勝てるパートナーであるレッドブルへPUを供給したことだった。 だが、開幕戦で表彰台を獲得して以降、ホンダに勝機が訪れる機会はなかなか巡ってこなかった。それは今年のF1は開幕戦から第8戦フランスGPまで、メルセデスが8戦全勝とシーズンを席巻していたからだった。
ところが、そのメルセデスが第9戦オーストリアGPで失速する。それにはオーストリアGPの週末の天候が大きく影響していた。今年のオーストリアGPはヨーロッパを襲った熱波により、例年よりも高温となり、どのチームもオーバーヒートに苦しめられた。その中でも最も苦しんだのがメルセデスだった。 「自分たちがこのオーストリアGPでオーバーヒートに問題を抱えることはレース前から覚悟していた」(ルイス・ハミルトン) 逆にホンダは冷却性能をできるだけ高める設定でオーストリアGPに臨んでいたこともあり、メルセデスやフェラーリに比べて、ペースの落ちが少なかった。また直前に投入したホンダのスペック3となるPUには、航空エンジン開発部門が有する知見と技術が反映されたターボーチャージャーが搭載されており、これまでのターボーチャージャーよりも効率が上がっていたことも、標高約700mと空気の薄いレッドブルリンクで行われたオーストリアGPでアドバンテージとなっていた。 復帰から5年、ホンダのPUは信頼性とパフォーマンスがマクラーレン時代とは比べ物にならないほど、大きく向上していた。それを勝てるマシンであるレッドブルに搭載した今年、ホンダが勝つことは時間の問題だった。それがどのグランプリになるかは、ライバルチームの状況次第で、オーストリアGPはレッドブル・ホンダにとって勝つ条件が整った今シーズン最初のグランプリだった。 ホンダにとって13年ぶりの勝利は、勝つべくして勝った見事な勝利だった。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)