『海に眠るダイヤモンド』なぜ神木隆之介は「一人二役」だったのか…近年まれに見る「骨太ドラマ」を読み解く
コスモスとギヤマン
最終話で鉄平とリナの「駆け落ち」の真相が描かれるのも、玲央が鉄平の日記の欠損は、日記を運んだいづみの秘書の「サワダージ」こと澤田が怪しいと睨んだからだ。澤田が進平とリナの息子の誠であったという事実は、(「どちらにも似てない!」という事実はさておき)衝撃的だった。誠を守るために、鉄平は理不尽にも実際は関わりのない殺人の罪を独りで背負い、リナと誠とともに姿を消したのだった。 澤田が、鉄平が失踪した理由をいづみや玲央たちに語り、11冊目の日記と破られたページをいづみに返したことで、失われたピースが回復される。それによって、日記に書かれた逃亡する鉄平と賢将との再会やギヤマン製作を通じた朝子への想いという、10冊の日記には書かれていなかった鉄平の記憶が最終話でようやく視覚化される。 そしてクライマックスが訪れる。玲央はいづみの背中を押して一緒に端島に降り立ち、船長を通じて鉄平の住所を突き止める。そして長い逃亡の末にやっと自由になった鉄平が終の棲家にしたという家に、いづみを連れていく。 いづみがその庭を見た瞬間を、私は一視聴者として忘れないだろう。端島が遠く見渡せるその庭には、コスモスの花が咲き誇っていたのだ。一緒にコスモスを植えるという朝子との約束は果たせなかったが、鉄平が一途に朝子を想い続けていたことを風に揺れるコスモスの花々が雄弁に語り、この瞬間、端島で凍結された時間は溶け出し、朝子の止まっていた時計は動き出す。 その後に挿入される、ありえたかもしれない端島の幸福な映像は、コスモスの花によって鉄平の気持ちを確認したいづみと玲央が見る夢だ。この時点では既に8ミリフィルムで鉄平の本当の顔は確認されているのに、映像の中で玲央の顔であり続けるのは、いづみと玲央が二人で辿り着いた夢だからにほかならない。まさにエンディングで玲央の声が語るように、二人は「見たはずのない景色を、夢に見る」のである。 その幸福な夢の中で、いづみは端島に取り残されていた朝子にようやく出会い、「朝子はね、気張って生きたわよ」と告げる。そして朝子は鉄平のプロポーズを受け入れる。鉄平が朝子に渡すのは、ダイヤの指輪ではなく、朝子がダイヤの指輪よりもほしいと言った、もう一つのダイヤモンドであるギヤマンだ。 実際には、鉄平は今では立ち入ることのできない端島の居住区域に置いてきたので、鉄平が心をこめて作ったそのガラス細工を誰も見ることはできない。それは幸福な夢の中でのみ見ることのできる朝子と鉄平の愛の結晶なのだ。