何でも一人でできる父 でも…長湯の父に、家族が面倒だと感じていること
認知症介護指導者の白石昌世司さんが、認知症の様々な悩みに答えます。 【関連】入浴にタオルを2枚使う母。「なんでわざわざ…」と思う息子が、思わず納得した理由
Q.認知症の義父(80代)と同居しています。ほとんどのことは自分ででき、お風呂も1人で入りますが、毎回湯船からなかなか上がってこず、何度も声をかけにいきます。のぼせて倒れるのではないかと心配ですし、毎回声をかけるのもストレスです(50代・女性)
A.認知症の方が、お風呂からなかなか出てこないというのは、施設でもよく経験します。入浴前は、お風呂に入るのを嫌がっていたのに、いざ入るとなかなか出てこないということもあります。お義父さんの場合は、なぜ湯船からなかなか出てこないのでしょうか。いくつかのケースが考えられますが、寒い時季であれば、単純に寒いから出たくないという場合があります。認知症の方の場合、判断力の低下により暑さ寒さや温度に対する正しい判断が失われて、からだが温まらないと感じて湯船に浸かっていることがあります。加えて時間の感覚が低下していることもあるので、気づかないうちに長時間が経過していたということが考えられます。相談者から出るように促されても「まだ入ったばかりなのに」と思っているのかもしれません。 また、以前と比べて入浴の時間が長くなっているということであれば、例えば浴室での手順がわからなくなったり、シャンプーと掃除用洗剤の区別がつかなくなったりして、手間どることが多くなったのかもしれません。「ほとんどのことは自分でできる」とのことですが、専門職から見ると、ご家族の認識とご本人の症状にずれがあると感じることは少なくありません。つまり、ご家族が感じている以上にできないことが増えている可能性があると思います。 こうしたことが原因であれば、浴室の環境を整えることで、お風呂の時間を短くできるかもしれません。例えば、事前に浴室や脱衣所を暖房器具などで温めておく、浴室にお義父さんが使用するもの以外の余計なものは置かない、シャンプー、ボディソープなどを一目で違いがわかるようにしておくといったことです。 忙しい時間帯に浴室まで何度も声をかけに行くとなると、確かにストレスです。あるご夫婦は、お風呂からなかなか出てこない夫に対して「ビールが冷えていますよ」と声をかけるとすぐに出てくるそうです。「ごはんができましたよ」など、お風呂から上がったときの楽しみを示すほうが、直接的に「出てください」というよりは効果的かもしれません。食後に入浴するのが習慣であれば、そのために入浴時間をずらすというのも1つの方法です。 もし、ほかの家族も同居されているのであれば、相談者だけではなく、ほかの家族が声をかけるようにするのもいいでしょう。 環境を整えたり、声がけを工夫したりしても状況が変わらない、あるいは相談者のストレスが軽減されないということであれば、介護サービスを利用するのもおすすめです。訪問介護を利用してヘルパーに入浴を介助してもらうほか、短時間の入浴特化型デイサービスもありますので、そうしたサービスを利用する方法もあります。専門職の目でお父さんの入浴中の様子を確認してもらうこともできます。 お風呂は毎日のことなので、相談者のストレスは大きいことと思います。お義父さんのお風呂での安全や満足感を守りつつ、相談者のストレスが軽くなるといいですね。
【まとめ】なかなか湯船から上がってこない認知症の義父。何度も声をかけにいくのがストレスになっているときには?
・寒くてなかなか出られないかもしれないので、事前に浴室や脱衣所を温める ・以前に比べて入浴の時間が長くなった場合は、浴室で手間どっている可能性があるので、シャンプーなどを一目でわかるように環境を整える ・「ごはんができましたよ」など、入浴後の楽しみを示して出るように促す ・声をかけるストレスが大きければ、ほかの家族に声がけをしてもらう、あるいは訪問介護や入浴特化型デイサービスを利用する ≪お悩みの内容については、介護現場の声を聞きながらなかまぁる編集部でつくりました≫
白石昌世司