元ホンダ技術者・浅木泰昭氏が2024年のF1を大総括!「レッドブルには"何がなんでも勝つという以外の正しさ"もあった」【前編】
■レッドブルの勝つ気の無さは衝撃的だった ――ドライバーズ選手権はフェルスタッペン選手が死守しましたが、コンストラクターズ選手権はマクラーレンが26年振りに獲得しました。 浅木 今シーズンはレッドブル(9勝)、マクラーレン(6勝)、フェラーリ(5勝)、メルセデス(4勝)の4チームが勝利し、最終戦まで接戦が続きましたが、私が一番印象に残ったのはレッドブルのコンストラクターズ・タイトルに対する勝つ気の無さです。あんなレッドブルは見たことがありませんね。 これまでレッドブルのヘルムート・マルコ(モータースポーツ・アドバイザー)さんは、チームが勝つために成績が低迷したナンバー2ドライバーをシーズン中に切ったり、セカンドチームに降格させたりしてきました。 ――現在アルピーヌのエースドライバー、ピエール・ガスリー選手も2019年、開幕から結果を出せず、シーズン半ばにレッドブルからセカンドチームのトロロッソ(現在のビザ・キャッシュアップRB=VCARB)へ降格させられています。 浅木 それが成功したか、していないかはさておき、マルコさんは勝利のために、時に無慈悲ともいえるようなドライバー人事を繰り返してきたんです。でも今シーズン、セルジオ・ペレス選手が中盤戦以降は不振に陥り、表彰台はおろか入賞がやっというレースが続きましたが、何も手を打たなかった。 結果的にフェルスタッペン選手がチャンピオンを取りましたが、コンストラクターズ選手権でみすみすランキング3位に終わるなんて、私が知っていたレッドブルではあり得ません。随分、違うなあと感じましたね。 ――どうしてレッドブルはそうなってしまったのでしょうか? 浅木 ドライバーの選択は、レッドブルの創設者ディートリヒ・マテシッツさんから絶大な信頼を得ていたマルコさんに一任されていました。マルコさんが決めたドライバー人事に周囲の人間は誰も口を出せませんでした。 ところがマテシッシさんが亡くなり、チーム内でクリスチャン・ホーナー代表とマルコさんのと間で権力闘争が勃発した。表面的には両者が手打ちした形になっていますが、それまでとはチーム内の力関係が変わったんだと思います。権力闘争とドライバー選択が絡み合い、マルコさんがこれまでのような決断をできなくなってしまったのではないかと予想しています。