社説:子育てと教育 問われる「次世代への投資」
子どもを産み育てたい。経済状況に関係なく希望の学校に進みたい―。そう望む人が諦めることのない社会づくりが急務だ。 少子化に歯止めがかからない。出生数は2023年で過去最少の72万7千人となり、70万人割れも近い。 岸田文雄前政権が打ち出したのが「異次元の少子化対策」である。昨年末には、こども未来戦略をまとめ、それに基づく少子化対策関連法を今年6月に成立させた。 児童手当や育児休業給付の拡充、親の就労に関係なく預けられる「こども誰でも通園制度」などを進める。 石破茂首相は所信表明で、「こども未来戦略を着実に実施する」と強調し、自民党の公約にも反映させた。 問われるのは、その内容と財源だろう。 費用は今後3年かけて新たに年3兆6千億円が必要とし、公的医療保険に上乗せして徴収する「支援金」を26年度に創設する。加えて社会保障の歳出削減も含めて財源を確保するというが、医療や介護の質を維持しつつ、持続可能な制度となるのかは見通せない。 子育て世帯向けの支援が色濃く、少子化最大の要因とされる「未婚」層への策は乏しい。女性が結婚をためらう理由の一つに挙がる夫婦同姓の義務を見直し、選択的夫婦別姓を導入することも重要だろう。 衆院選で各党が競うように掲げるのが教育無償化だ。自民は「高等教育」、立憲民主党は「国公立大の授業料」、日本維新の会は「教育の全課程」とする。 この10年で私立大の平均授業料は約10万円アップした。国立大も財政難から一部大学で値上げされている。国は低所得世帯の子どもを対象に、授業料減免と返済不要の給付型奨学金の制度を導入し、対象も広げたが、中間所得層は対象外だ。 公約では他にも「小中学校の給食費」や「高校授業料」で無償化の文字が並ぶ。ただ、無償化に伴う膨大な費用をどう捻出するのか。限られた財源の中、予算を抜本的に組み替えるといった方策を示さねばならない。 小中学校では教員の多忙と不足が深刻だ。政府は残業代の代わりとなる教職調整額を増額する方針だが、「定額働かせ放題」の状態は変わらない。質と量の確保は公教育の担保に欠かせない。 子どもの貧困率は21年で11・5%と約9人に1人に上る。ひとり親世帯で見ると44・5%で、半数に近い。困窮家庭では進学の断念や、塾・習い事の学びが確保できない「教育格差」が指摘されている。それが「就職格差」、「所得格差」へとつながる負の連鎖を断ち切らねばならない。 「次世代への投資」の構想と実行力が求められる。