「素敵な生活」が招く「恐ろしい病」…SNS世代を苦しめる「現代病」とは
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行した。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第40回 『「背が低い」と悩んでいるなんてもったいない!…あなたは「変わらないこと」を悩み続けていませんか?』より続く
君の悩みは「悩んで意味があること」?
毎日の生活も「悩んで意味があること」と「悩んでもしょうがないこと」をちゃんと分けるのが大切だね。 君が今、心配していることは、変わる可能性があること?それとも、変わる可能性がないこと? まったく変わる可能性がないのなら、心配しても、悩んでも、ムダなんだ。時間のムダだし、エネルギーのムダだし、意味がない。とっととやめた方がいい。 もちろん、身長をグチっている彼が、「身長が伸びる食べ物を調べたよ」とか「何歳まで身長が伸びるかの科学的なデータを見つけてさ」なんて話すのは、悩んでいるのではなく考えた結果だ。それを話し合うのは、とても素敵なことだと思う。
今ある自分とありたい自分
スマホによって「自意識」が大きくなると、「ありたい自分」がどんどん成長してしまいます。 SNSで見る他の人の生活は、なんだかかっこよくて華やかです。それに比べて、自分の生活は、なんて平凡で地味で貧しいんだろうと思ってしまうのは、無理もないことです。 だからこそ、そういう情報に接していくうちに、そんな派手な生活が「ありたい自分」になっていくことも、とても自然なことだとぼくは思っています。 InstagramやTikTokやX(旧Twitter)や配信アプリは、君も知っているように「現実を切り取り」ます。現実の中で、「映したい部分」「見せたい部分」だけをピックアップします。 それが魅力的に見えるのは、当たり前でしょう。 どんなにじっくり見ても、それは切り取られた一部分ですから、本当の意味では相手をちゃんと見たことにはなりません。 君が旅行に出て、95%退屈したとしても、5%だけ素敵なことがあったとするよね。見事な風景か楽しい体験かちょっとした出来事か。それを君はSNSにアップする。 それだけで、他人から見れば、その旅行は、100%うらやましいものになるんだ。 ……と頭で分かっていても、毎日、他人の素敵なSNSに接していると、だんだんと「ありたい自分」が大きくなってくるよね。 『「ほんの少しでいい」…「ありたい自分」と「今ある自分」にギャップを抱えるあなたにアドバイス』へ続く
鴻上 尚史(・作家・演出家)