【愛国と貧乏】NHK国際放送で中国人アナウンサーはなぜ“不適切発言”をしたのか?
中国人“アナウンサー”による不適切発言の波紋が広がっている。 その男性(以下は頭文字から「K」と表記する)は8月19日、NHKラジオの中国語ニュース番組において、靖国神社での中国語落書きに関するニュースを読み上げた後、「釣魚島(尖閣諸島)と付属の島は古来より中国の領土。NHKの歴史修正主義とプロフェッショナルではない業務に抗議する」「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」と中国語、英語で発言した。 【写真】「元NHK中国籍職員」によるSNSへの投稿 NHKは22日にこの問題を公表した。損害賠償、刑事告訴を検討しているが、すでにKは中国に帰国しており、賠償も訴訟も困難とみられている。 NHKの国際放送には、国際問題に関する政府の見解を海外に伝えることを目的として、国の交付金が支給されている。2023年度ではラジオに9.6億円、テレビに26.3億円が支払われた(NHK公式サイト)。国益のために税金を投じて行っている国際放送で、日本の立場と反する見解が流れたのだから、大問題であることは間違いない。 果たして、なぜこのような事態が起きたのか。
待遇への不満か
「愛国心むき出しの人間ではなかったと聞いています。なんでこんなことをやったのかはさっぱりわかりません」と、あるNHK関係者は話す。もともと根っからの愛国者でついに我慢できずに行動を起こした……とは、とても考えられないという。 では中国政府の浸透工作(各種手段を使って中国の影響力を拡大しようとする工作)ということはありえないのだろうか。それも考えづらいというのが前述の関係者のコメントだ。 というのも、Kは“アナウンサー”という肩書きで紹介されていたが、実際にはNHKの関連団体と業務委託契約を交わし、通訳やナレーションの仕事に派遣されるという役割で、NHK内部の機密を得ることは難しい。わざわざ浸透工作のターゲットにしても不適切発言をさせるぐらいしか使いどころがない。 よりありそうな話が個人の不満だ。Kはたびたび自身の待遇に不満を漏らしていたという。業務委託での通訳、ナレーション業務は非正規職で給与などの待遇は決して恵まれたものではない。Kは中国の大学を卒業後、22年前に日本に留学、東京大学の大学院を卒業したというキャリアを持つ。 24年現在の中国では大卒の学歴などありふれているが、22年前の時点では相当のエリートだ。02年の高等教育(四年制大学、高等専門学校)卒業生は134万人、それが24年には1179万人にまで膨れあがっている。最近では、名門大学卒業生でも就職先が見つからず、フードデリバリーやライドシェアなどのギグエコノミーで働くという話も珍しくはない。 しかし、Kの卒業当時は大卒ならば好待遇の就職が期待できた。彼の同級生の多くは出世し、それなりの役職についているだろう。 四大卒の時点で十分エリートなのに、東京大学大学院という学歴までプラスしたのだから、早々に中国に帰国していれば、中国経済急成長の波に乗ってかなりの良い職を得られたのではないか。少なくとも業務委託での通訳、ナレーションよりは高給を得ていた可能性は高い。