「自分さえ面白ければ良い」の真逆 齋藤孝が絶賛する銀シャリ橋本の誰も傷つけないツッコミ力とは(レビュー)
齋藤孝・評「そのツッコミはフロイトに通ず」
いま全国に、細かいことが気になって自分を上手く表現できず悩んでいる方がたくさんいらっしゃると思います。そんな生きづらさを感じている方に朗報です。橋本直さんのエッセイ集『細かいところが気になりすぎて』を読めば、そんな心のモヤモヤがきっと晴れていくでしょう。 橋本さんは言わずと知れたお笑い芸人で、銀シャリというコンビのツッコミ担当。あえて「先生」と言わせてもらいますが、私は、橋本先生は数多のツッコミ芸人のなかでもナンバーワンの実力の持ち主だと思っています。というのは、橋本先生とはテレビで何度も共演しましたが、間近で繰り出されるそのツッコミは他の誰とも違う視点からのものであり、語彙の豊かさやその瞬発力に脱帽しました。 また、私の大好きなバラエティ『ゴッドタン』でも、そのツッコミ力に特化した企画がシリーズで放送されています。それは橋本先生のツッコミがあまりに見事なのにもかかわらず、普段大勢が集う番組ではその力を出しきれていないのがもったいない。ゲームメイクしつつ、どんな位置からもシュートを決めるサッカーのメッシのような、芸術的で総合力もあるそのツッコミを遺憾なく発揮させてあげようというもので、そんな企画がテレビで成立すること自体、橋本先生のツッコミが日本のトップである証でしょう。 なぜ私が「先生」とお呼びするかというと、この本はエッセイとしてはもちろん、「ツッコミ健康法」としても楽しめるものだからです。先ほど申し上げた通り、本書で繰り出されるツッコミに倣えば、心身が健やかになり、人に対しても優しくなれる。無敵の健康法と言えるのです。 具体的にみていくと、橋本先生はとりあえず何にでもツッコみます。例えば「究極の塩ラーメン」の章。楽しみにしていた塩ラーメンの味がすごく薄かった時、「アカン! アカン!! アカン!!!」と脳内で宮川大輔さん並の叫び声をこだまさせながらも、「優しいお味で、しっかり出汁がきいていて、次々に食べ進めたくなりますね~」「スープ全部飲み干せますね」とどんどん言葉を被せていく。すると味の微妙さがプラスに転換されるから不思議です。