外国人騎手のJRA騎手試験挑戦がもたらすものとは?
では、なぜ彼らは強いのか。 その理由のひとつにハングリー精神がある。置かれた環境が、中央競馬と海外とでは大きく違う。 M・デムーロ騎手の所属する、イタリアの競馬統括機関(ASSI)では、馬券売上による経営難もあり、2012年の1月から国内の全競走で賞金を一律40%カットする方針を打ち出した。これに対しては騎手や調教師といった競馬関係者がストライキを起こす騒ぎとなったが、9月からはイタリアの競馬を管轄している農務省が賞金のカットどころか、賞金の支払いを停止した。 好騎乗を見せても賞金も出ない自国の競馬より、日本で優れた成績を残そうとM・デムーロ騎手が思うのは自明の理でもある。優れた技術や能力を持った者が、より高いレベル(高い賞金)の元で戦いを求める。ごく当たり前のことなのだが「騎手学校」というシステムが構築され、騎手試験さえ合格すればデビューが約束されていく日本の競馬とは、そもそも騎手たちの立ち位置や気構えまでが全く違っていたのだ。
1次、2次の騎手試験を合格しなければJRAの騎手とはなれない
しかし、これまでは外国人騎手に対して短期免許しか交付されなかった。実績を残していながら、騎手試験を受け直さなくてはならない。 日本(中央、地方)の競馬で騎乗する騎手は、もれなく日本中央競馬会と地方競馬全国協会が実施する騎手試験に合格し、騎手免許を取得しなくては通年でのレースの騎乗が許されない。 その騎手試験だが、受験者のほぼ100%が競馬学校(中央は千葉、地方は栃木)の競馬学校で3年間の騎手過程を受けており、しかも競馬学校の入学は義務教育の卒業から20歳まで。現状の制度では、まさに選ばれた人間しか騎手になることを許されないのだ。 現在、地方競馬から移籍してきた戸崎圭太騎手、岩田康誠騎手らが好成績を残しているが、彼らにも厳しい試験が課せられている。以前は中央競馬で規定以上の勝利数を上げていれば1次試験が免除されていたが、近年、そのルールは撤廃された。その1次試験の中身は、国語と社会の筆記試験で行われ、2次試験は試験官との口頭試験となる。この口頭試験だが、M・デムーロ騎手、C・ルメール騎手共に通訳を付けることは許されず、日本語での会話が必要となるだけに、1次試験は合格したとはいえども、まだ高いハードルが待っている。 「中央競馬は世界や地方のトップジョッキーが騎手となることを認めたくないのか!」と憤慨される方もいるだろうが、厳しい試験があるからこそ公正競馬が保たれているという事実もある。 外国人騎手の本格参戦は、若手騎手のみならず、現在の中堅騎手たちも騎乗減という影響が出てくるのは否めない。しかし、一方で外国人騎手や地方出身騎手と切磋琢磨する中から、優れた成績を残す若手騎手たちも生まれている。 今年デビューした松若風馬騎手は、高い騎乗技術を見込まれ、関西の有力厩舎からの騎乗機会も多く、それに応えるかのように、新人騎手では一番の勝利数を残している。父がJRAの調教師(小崎憲調教師)という小崎綾也騎手は、怪我もあってデビューが遅くなったものの、松若騎手に迫る勢いで勝ち鞍を伸ばし、デビュー3年目の菱田裕二騎手やすでに実績のある浜中俊騎手も注目される存在となっている。