眠ったままの私たちの700億円はどこに行くのか? 「休眠預金」活用への期待と課題(上)
10年以上も手を付けていない銀行口座はありませんか? そうした口座に残った「休眠預金」をNPOなどの公益活動に活用しようという制度が今年からスタートしています。日本全体で年間700億円に上る「眠ったお金」が目を覚ましたとき、何が起こるでしょうか。多くの人にかかわる大事な話のはずですが、まだ国民的議論や関心を引き起こしているとは言えません。その意味や仕組み、課題を3回にわたって掘り下げます。
従来は銀行の利益、海外例に社会的活用を議論
子どものお年玉を預けるために親がつくって、そのままになっている口座。学生時代のアルバイト代の受け取りのためにつくって、もう使わなくなった口座。転居の手続きをせずに引っ越したため、金融機関が預金者と連絡が取れなくなっている口座。相続人が預金の存在を知らないまま預金者が亡くなってしまった口座…。休眠預金にはこのような例が考えられます。 そもそも、銀行や信用金庫などの金融機関は10年を超えて取り引きがなく、預金者と連絡が取れなくなった口座を「休眠口座」として管理してきました。日本の民法や商法の規定に従えば、こうした預金は金融機関の利益として計上できます。しかし、海外では管理団体を通してチャリティー団体に資金を提供するイギリスや、財団法人を通じて福祉事業者への小額融資に活用する韓国の例などがあり、日本でも社会的な活用を考えるべきだという議論が起こりました(三菱UFJリサーチ&コンサルティング政策研究レポート、2014年10月)。 具体的には、2009年からの民主党政権時代に「新しい公共」推進会議でNPO代表者らの提案を基に議論がスタート。12年にNPOや学識経験者が呼び掛け人となった「休眠預金国民会議」が設立され、休眠預金活用の法制化を目指した研究や啓発活動が進められました。14年4月には超党派の「休眠預金活用推進議員連盟」が発足。16年12月に「民間公益活動を推進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が成立。そして今年1月1日から、休眠預金は預金保険機構に移されたのちに、民間団体が行う公益活動に使われる制度が施行されたのです。 預金保険機構に移された後でも、預金者はいつでも金融機関の窓口で払い戻しを受けられます。金融機関は預金者に払い戻す努力を尽くしたうえで、民間の公益活動に活用することで広く国民に還元しようという考えです。