眠ったままの私たちの700億円はどこに行くのか? 「休眠預金」活用への期待と課題(上)
活動資金に悩むNPOなどに民間主導で助成する仕組み
民間の公益活動とはどんなことでしょうか。 日本社会のさまざまな課題に対して、行政任せにせず自分たちの手でできるアクションを起こしている人たちがいます。「こども食堂」で貧困家庭を支援したり、一人暮らしの高齢者の生活を支えたり、田舎に移り住んで新しい仕事をつくってまちづくりに取り組んだりする人たちなどです。 ところが、こういった活動をする団体は多くが活動資金に困っています。利用者などからお金を取ることが難しく、十分な寄付が集まらないことも多いためです。NPO法人に限っても、年間の収益が1千万円に満たない法人が半数を超え、2割は100万円未満。そのため職員が採用できなかったり、十分な設備投資ができなかったりする団体が少なくありません。 そこで、こうしたNPOなどに休眠預金を活用してもらうことになりました。ただ、無制限に出すわけにはいきません。その基準や選定は誰がするのでしょうか。 内閣府は「行政においては過度の干渉を避け、民間の発意を尊重する」と、民間主導を強調。預金保険機構から民間組織の「指定活用団体」に資金を交付し、さらに公募で複数選定される「資金分配団体」に助成、そのうえで現場の民間団体に資金が行き渡る仕組みとなりました。 指定活用団体は「前例のない革新的な取り組みを行う団体」への支援を重視し、全国のモデルとして広く普及させていくことを求めます。また、民間団体が財源を休眠預金のみに依存しないよう、資金分配団体は自立性を高めていくための経営支援もします。継続して社会課題に当たることのできる担い手の育成にも力を入れる考えです。 対象は「子ども及び若者の支援に係る活動」「日常生活又は社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動」「地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動」などが挙げられています。
初の「指定活用団体」は経団連系の団体に
当然、対象となりそうな団体にとって、またとない朗報のように思えます。ところが、各地のNPOからは、期待とともに「コツコツと続けてきた活動を破壊しかねない制度だ」という不安の声も聞こえてくるのです。 休眠預金を原資にするという、日本では前例のない壮大な社会実験であることに加え、700億円という金額の大きさもケタ違いです。すでに民間の資金を基にNPOなどへ助成をしている日本財団など国内の団体のうち、上位20位までの年間助成額をすべて合わせても523億円ほど。初年度の休眠預金による助成額は30億円ほどと見込まれていますが、ゆくゆくは莫大な金額が民間の公益活動に流れ込むことになります。担い手不足や組織ガバナンスの脆弱性が指摘されることの多いNPOなどに、これだけの金額を適正に管理、運用できる力があるのかと危ぶむ声も少なくありません。 制度の策定プロセスにも大きな疑念が残っています。18年2月には「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」案についてのパブリックコメントが募集され、168件の意見が寄せられました。しかし、3月の審議会では、委員がパブリックコメントを読むこともなく、概略が説明されたのみ。わずか8分間の審議で基本方針案の修正は不要とされました。これに対して「NPO支援センター有志一同」や「現場視点で休眠預金を考える会」など全国のNPO関係者らが「公正性を担保すべき休眠預金活用の議論の過程として大きな問題」だとして意見書を提出しています。 700億円という莫大な金額を動かすのに、基本方針では具体的にどのような事業がこの制度の対象になるのか、資金分配団体や民間の公益活動団体がどのように選定され、管理されるかも決められていません。重要な多くの事項はほぼ指定活用団体が決定するという、いわば丸投げ状態です。 こうした中で今月11日、指定活用団体に申請のあった4団体の中から「一般財団法人・日本民間公益活動連携機構」が決まりました。日本経済団体連合会(経団連)が休眠預金の法施行を受けて設立した団体で、理事長には損害保険ジャパン日本興亜の二宮雅也会長が就いています。内閣府は、▽「オールジャパン」での取り組みとなるか▽「利益相反」を招かないか――などの立法趣旨に照らして総合的な検討を行った結果、指定したと説明しています。しかし、この決定を今、どれだけの人が知っているでしょうか。