数年後の葬式のため遺体を長期保存 それまでは「生きてる人」扱い 独特の死生観を持つトラジャ族とは
亡くなった人を弔う方法は国によって異なります。遺体の扱い方や墓の種類などは、その土地の風習や文化を色濃く反映。なかでも、インドネシアの少数民族・トラジャ族の葬儀は世界的に珍しいことで知られています。日本をはじめとするアジアのユニークな社寺や不思議な信仰、巨大な仏像などを求めて取材をおこなう神社仏閣ライター兼ウェブサイト「珍寺大道場」の管理人である小嶋独観さんに話を聞きました。 【写真】どういうコト!? 葬式が外国人旅行者の観光スポットに! ☆☆☆☆ インドネシアのスラウェシ島に位置する南スラウェシ州と西スラウェシ州に住む少数民族・トラジャ族。小嶋さんは、実際にトラジャ族が暮らす地域に赴いた経験があるそう。 「まず日本と異なるのは“葬儀までの期間”ですね。トラジャでは、人が亡くなってから数年後に葬式をします。莫大な資金がかかるため、お金を貯える必要があるからです。葬式は数日にわたっておこなわれ、千人以上もの人が集まります。大規模な式となると外国人観光客専用の観覧席が設けられ、見物する事が可能なんです」(小嶋さん) 小嶋さんによると、葬式の内容はかなり派手とのこと。参列者による歌やダンスの演出、宗教者による「お経」のようなものも唱えられ一種の“お祭り状態”となるようです。 式の途中には専門の業者が呼ばれ、水牛や豚が屠られます。これが大事な行事なのだとか。裕福な家の場合は一頭数万~数百万円もの高価な水牛を何頭も屠り、その肉を調理し参列者にふるまいます。式の後には屠った水牛の角を家の柱に括り付け、葬式の際に何頭屠ったかを近所の人々に示します。 葬儀が執り行われるのに年月を要するため、それまでは遺体を家に置いておくことになります。トラジャ族は高地に暮らしているとはいえ、熱帯地方に変わりありません。そのまま放置する訳にはいかないので、現代では防腐剤のようなものを投与。高床式家屋の床下に作った部屋に安置し保存するそうです。 「トラジャ族は『人は葬儀をされることにより、死を迎える』という考えを持っています。ですので、葬儀前の死者は『死んでない』というテイ。そのため食事も毎日与え、家族とともに生活します」(小嶋さん) 葬儀が終わるとようやく遺体が墓に収められるのですが、その際にも独特の風習を見せるのだそう。 「トラジャは洞窟の中や岩山に穴を掘ったところを墓とします。コンクリートで作った家型の墓もありますが、いずれにせよ土葬や火葬はせず、いわゆる風葬となります。彼らは土の中は汚い世界だと考えているのと、なるべく『天空(あの世)』に近いところに埋葬したいという思いが強いためです」(小嶋さん) ☆☆☆☆ 小嶋さんによれば、これらの風習は「現世の生活よりも死後の行き先の方に重きを置く」という死生観が関係しているのだとか。あの世は天空にあり、より高い世界に行けた方が幸せに暮らせる……という考えがトラジャには根付いています。そのためにもより多くの牛豚を屠り、葬儀でふるまう必要があるというわけですね。 (取材・文=つちだ四郎)
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