「成果を出せない上司」は発酵を学ぶといい理由 答えのない不確実な時代のチームマネジメント
■「発酵」と組織論、発酵は環境を整えること この「複数の要素の関係に着目する」日本の発酵の概念を、組織論の視点から眺めてみましょう。 以前、懇意の味噌メーカーの方が、「人間は、麹と、水と、塩を混ぜることしかできない、混ぜたものを味噌に変えるのは微生物しかできない」とおっしゃっていました。多くの醸造メーカーの方は、「微生物が活動しやすい環境を整える」という表現をします。 私も、この思いに共感します。私も代々「麹菌の声を聴け」と言われてきました。
麹菌は暑いとも寒いとも声を出して言わない。しかし、麹菌をよく観察すること、時には実際に触ってみる作業を通じて、麹菌が暑いと思っていないか、あるいは、寒いと思っていないか、ジメジメしすぎだと思っていないか、乾燥しすぎだと思っていないか、そんな声なき声に耳を傾けながら、麹室と呼ばれる、麹がある部屋の温度と湿度をコントロールして環境を整えてあげる。これが、人間が「発酵」においてできることです。後は「これだけ環境を整えたのだから」と、微生物たちを信じてその活動に任せるしかありません。
人間に発酵食品はつくれないのです。 ■組織マネジメントにも通じる考え方 さて、私はこの「環境を整える」という感覚は、組織マネジメントにも通じると考えています。リーダーである自分にできないことを、プレイヤーたちにやってもらう、その成果を信じて待つ、という感覚は、発酵食品づくりで養える感覚だと思います。 麹菌や酵母、乳酸菌などの微生物たちは、「自分たちが味噌をつくろう」と思って活動しているわけではありません。それぞれの微生物たちは、自分たちが勝手に活動していて、その「勝手な活動の結果の集合」として生まれたものが、結果として人間にとっては発酵食品になっているわけです。
麹菌が自分たちの活動の結果、体外に出した酵素や、酵母が生産したアルコール、乳酸菌が体外に排出した乳酸などの各種の物質を、人間が勝手に利用しているわけです。 麹菌、酵母、乳酸菌など複数の微生物が、それぞれは勝手気ままに活動しているのだけれど、その活動の組み合わせが、実は、自然と環境のコントロールになっていたり、それぞれに栄養を補給する関係になっていたりと、まるで、チームワークがそこにあらかじめ存在していたかのような動きをします。これが、日本の発酵食品づくりの魅力です。