近づく「1ドル=160円」遠のくアメリカ利下げ…介入はあるのか
1ドル=160円で11万3000円負担増
日本時間のその日の夜に、アメリカで発表された3月の個人消費支出(PCE)物価指数の伸び率が2.7%と、前月を上回り、インフレの根強さが示されたことで、利下げ時期が遅れるとの見方が一段と広がると、26日のニューヨーク外国為替市場の円相場は、1ドル=157円を超えて円安が進み、その後、158円台に突入し、約34年ぶりの円安ドル高水準となる160円台が視野に入ってきた。 円相場が160円台に入った場合の家計負担増の試算を、みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介主席エコノミストが行った。それによると、2024年度の世帯平均の支出は、前年度と比べて11万3300円増える。輸入食材や電気・ガス料金が値上がりするなか、食料で4万4100円、エネルギー関連で4万2100円の負担増となる。
遠のく米利下げ、円買い介入は?
今後の円相場のカギを握りそうのが、FRB=アメリカ連邦準備制度理事会が30日から2日間の日程で開くFOMC=連邦公開市場委員会後のパウエル議長の会見だ。会合では政策金利は据え置かれる見通しだが、パウエル議長がこの先の利下げについてどのような見解を示すのかが注視される。 16日、パウエル議長は、物価上昇率が2%に戻る確信を得るには、「予想以上に時間がかかりそうだ」と述べ、利下げの先送り観測が一層強まった。市場関係者の間では、アメリカの今年中の利下げ回数は1回程度の見方が増えている。 注目度が高まっているのが、日本政府による円買い介入の可能性だ。円安局面の根底に、アメリカの高金利という大きな要因が横たわる以上、ドル高の流れにあらがう介入を行っても、その効果は限定的で、アメリカが利下げ局面に入るまでの時間稼ぎに過ぎないと考えられる。 アメリカ・ワシントンで17日に開かれた日米韓による財務相会合では、共同声明に「最近の急速な円安・ウォン安への日韓の深刻な懸念を共有する」との文言が盛り込まれたほか、続いて開催されたG7財務相・中央銀行総裁会議の共同声明は「為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得る」とした過去の合意事項を再確認する内容となった。 このような流れについて、市場関係者の間からは、為替の急激な変動はよくないとするコンセンサスのもと、仮に日本が円買い介入を行う場合もこの枠組みに沿ったものであることを確認しておくことが、介入に向けた地ならしになったとの観測が出ていた。 こうしたなか、アメリカのイエレン財務長官は25日、ロイター通信の取材に対し、ほかの国が為替介入を実施する場合について「市場の混乱や過度な変動に対処するため、まれな状況でのみ受け入れられる」との認識を示し、事前に協議されることが望ましいとした。為替の動きは基本的には市場に任せるのが原則で、介入は急激な変動がある場合に限られ、単独で実施する場合も、関係国間で事前に協議するのが適当だとする姿勢を明確にしたものだと受け取れる。 26日の外国為替市場の円相場は、植田総裁の会見後の午後5時過ぎに、1ドル=156円台後半から、2分ほどで154円90銭台まで一気に上昇する場面があり、「円買い介入」や、介入を前提に金融機関に相場水準を尋ねる「レートチェック」が入ったのではとの思惑が広がった。その後、値を戻し、「まとまったドル売りによるもの」とされたが、市場参加者の間では介入への警戒感が続いている。 介入が行われる場合、過度な変動に対処するためだと説明でき、効果を最大限引き出すことができるタイミングはいつになるのか。今週は、日本は大型連休で市場参加者が少ない一方、アメリカでは金融政策を決める会合のほか雇用統計の発表もあり、値動きが大きくなる可能性がある。政府の一手に大きな関心が寄せられている。 (執筆:フジテレビ解説副委員長 智田裕一)
智田裕一