シャンシャンフィーバー、でもどうして上野動物園は大幅黒字にならないの?
公益事業は税優遇の代わりに社会的な責任
しかし、どんなに来園者が増えても、上野動物園を運営している公益財団法人東京動物園協会は大幅な黒字になりません。なぜなら、公益法人には収支相償という規定があるからです。 「公益法人とは、不特定多数のために公益事業を実施する法人のことを言います。内閣府や都道府県といった行政庁から認定を受けた公益法人は、社会全体の利益を図る使命が課されているのです」と話すのは、公益財団法人公益法人協会の担当者です。 公益法人の売上は、主に収益事業と公益事業の2つに分類されます。そのうち、レストランや売店などの収益は収益事業にあたります。こちらの収益は、民間企業と同じような扱いになります。 一方、公益法人がおこなう公益事業は、学術・芸術・福祉・慈善などの23分野にわたります。しかし、これらに該当する事業をおこなっていても、行政庁から認定を受けなければ公益法人になることはできません。 「認定を受けた法人は、社会的信用を得ると同時に公益事業の収益が非課税になります。また、寄付金が税控除の対象になるので、たくさんの人から寄付を集めやすくなるメリットもあります。そうした税の優遇を受ける一方で、公益法人は公益目的を果たすという社会的な責任を負います。そのため、民間事業者のように闇雲に利益を追求することはできず、公益法人は生み出した利益を公益目的事業に充てることが求められます。これが収支相償の考え方です」(同)
来園者に施設の利便性などで還元
上野動物園も、公益財団法人である東京動物園協会が運営しています。動物園の運営は、学術・科学振興といった公益事業になります。シャンシャン効果で大幅な利益を得ても、それは公益事業になるので得た利益は社会や利用者に還元することが前提になっているのです。 社会や利用者に還元する行為には、一般的に入園料や施設利用料を下げる、動物園ならば飼育する動物を増やすといったことが考えられます。しかし、一時的に利益が増えても、今後も同じように利益を得られるとは限りません。入園料を安くすることで利用者に還元しても、それは一時的な還元に終わってしまう可能性があります。 また、動物園を拡大すれば飼育員や係員・警備スタッフを増やさなければなりませんし、飼育する動物が増えることで飼料代も増えてしまいます。毎年かかるランニングコストは、売り上げが下がっても切り詰めることは困難です。そうしたことを踏まえると、売り上げが増えても簡単に動物園を拡充することや新しい動物を迎え入れることはできないのです。 「公益法人は利益を社会に還元することを求められますが、事業年度によっては収入が上回ることもあります。収支相償の規定によって事業年度ごとに収支の均衡が求められますが、必ずしも単年度で赤字にする必要はありません。例えば、3年間の計画を立てるなど、中長期にわたって収支を調整することもできます」 上野動物園ならば、来園者の利便性を図るため園内を衛生的にする、案内板・説明板を増やす、バリアフリー化する、外国人観光客のために多言語表記を設置するといった還元策で収支相償を満たすことが考えられます。公益法人特有の収支相償という社会に還元されるシステムによって、私たち利用者もメリットを享受しているのです。