戦時利用された悲しい歴史を抱える! 「高川山」から「おむすび山」縦走のシメで親しみあるカタクリの群生に癒やされる
なんとも愛らしい、ほっこりした山名のおむすび山。標高は463mですが、秀麗富嶽十二景・十一番山頂の高川山からの縦走のラスボスということで、尾根の「結び」から命名された説と、桂川越しに見える山容が綺麗な三角形のおむすびに似ているから説など、いくつかのいわれがあるそうです。また困ったことに大月側登山口の標識も「むすび山展望台登山口」と「おむすび山展望台登山口」の2種類の標識が並ぶという混乱ぶりが、拍車をかけているようです。 【写真】戦時利用の爪痕を残すおむすび山を見る(全5枚)
春はカタクリ、紫のシメでハイカーの心を和ませる
秀麗富嶽十二景の山中にある標識には、大月市の製作標識板と同市が関与していない標識板とが混在しています。大月市製作の標識にはアーチ橋を模したかのようなブロックデザインの紫色の図柄が描かれています。笹子トンネルがイメージという話もあるようですが、とりあえずここでは大月市側登山口の標識に表記されている「おむすび山」で話を進めます。 おむすび山に登るにはJR中央本線大月駅から大月市中央病院の坂を上がり、住宅街とば口に登山口表示の標識があります。そこから民家の脇を上っていく、まさに里山です。カタクリの群生地として近隣住民の方々はもちろんですが、登山者にも親しまれている低山です。とりわけ一つ先の初狩駅から高川山の山頂を極めてきた縦走ハイカーには、可憐な山野草の花はいっときの憩いを与えてくれる大切なアイコンでもあります。 おむすび山単体ではやや食い足りなさもあり、それこそ高川山からの縦走の「むすび」で訪れる人が多いのではないでしょうか。この山頂には旧陸軍防空監視所跡があり、里山が戦時下において軍事利用された歴史が残っています。
山頂に突如現れる窪みに悲しい歴史あり
旧陸軍防空監視所は昭和17年の米爆撃機による本土初空襲により、空の守りとして『民防空監視隊』が組織され、山梨県には甲府、大月、南部に監視隊本部が置かれました。大月市ではおむすび山が適地とされたようですね。監視哨は三交代で昼夜を分かたず空の守りについたそうです。 『民防空監視隊』は敵機の目視監視と壕内からの航空機の飛行音の聞き分け、飛来する飛行機の種別、飛行方角を探るのが任務だったそうです。 残念ながらおむすび山の監視所設置について、多くの記録は消失してしまっているとのことですが、山は黙して語らずとも、里に住む方々の受難を私たち登山者は胸に留めておくようにしたいものです。カタクリの群生は平和への祈りかもしれません。決して摘み取ることもなきようにしたいものですね。
ソトラバ編集部