「消費税10%」予定通り引き上げるべきか? 高橋洋一氏×小黒一正氏
財政再建と社会保障の安定につながる?
消費税増税が必要なのは、財政再建と社会保障の安定化のためというのが一般的な理解ですが、その目的が実現できるかという点に関しても議論があります。 「実は社会保障の本当のコストは『社会保障給付費』と呼ばれるもので、それは年平均では約3兆円(消費税率1%の税収に相当)で増加しています。ですから、そもそも社会保障費を抑制しないと消費税率は10%でも財政は安定しません。本当に安定化させるには30%は必要でしょう。実際に財政が破綻してしまったら、日銀による国債の直接引き受けや新円切替、大増税といった最悪の対応が必要になってくる可能性もあります。そうやって将来への禍根を残すのではなく、いまできる対策をすべきで、社会保障改革と同時に、消費税増税はそのためにも必要だと思います」(小黒准教授) このまま何もしないでいると、最悪の対応が必要になるまでのタイムリミットはどれくらいと小黒准教授は見ているのでしょうか。 「日本は超高齢化社会をすでに迎えているわけですから、財政は15年もてばいいほうだと思います。20年以内にクラッシュが起きる可能性は高く、実務的には残された時間はもっと少ないと思って政策を立案するべきです。批判もありますが、財務省の官僚たちは、それを阻止するために頑張っているし、クラッシュした後も国を支えるという使命感を持っています。私は省内にいてその危機を待つよりも、事前に警告し、その可能性を低くしたいと思い、退官して学術・言論活動をすることにしたのです」 一方、「増税しないと財政破綻」論を否定する意見もあります。高橋教授はこう語ります。 「増税は経済成長を阻害します。経済成長すれば、その分増税しなくても税収は伸びます。経済成長による増税なき財政再建は可能なのです。経済成長はすべてとは言いませんが、多くの経済・社会問題の解決に有効です。例えば、経済成長によって、経済的理由の自殺はかなり救えるし、強盗問題も少なくなる。所得再分配問題・格差問題でも、成長なしの分配問題は、小さなパイを切り分けるように難しいですが、成長してパイを大きくした上で分配したほうが対応が容易になります」 ギスギスした椅子取りゲームをするよりも、余裕のあるイスを分け合うほうがいいというのは気持ち的にも安心する方法でしょう。しかし、日本は経済成長するのかという疑問もあります。 「それは日本が、最近20年間の名目GDP、実質GDP、一人当たりGDPのどれをとっても、世界の中でほぼビリの伸び率だったからです。先進国でビリではなく、世界の中でほぼビリ。そのため、その成長実績のために、何を言っても成長できないという固定観念ができて、成熟社会だからもう成長ないという後付けの理屈まで生まれてしまったと思います」(高橋教授)