カフェ、スマホ教室、介護予防… 団地を寮にする神奈川大サッカー部、地域に浸透
部員の社会性育成と地域の活性化を目的に、神奈川大学サッカー部が独特の活動を展開している。団地を部員の寮として利用し、介護予防教室なども開催している。地域での存在感は増すばかりで、住民からは「力を貸してくれて町が明るくなったし、元気になった」と歓迎の声が出ている。 【写真】神奈川大サッカー部員が入居する竹山団地の一室。1室に3人で暮らす ■団地は「日本の未来」 同部が利用しているのはグラウンドのそばにある竹山団地(横浜市緑区)。昭和45年に入居が始まった総戸数約2800、約45ヘクタールの大規模団地だ。 かつては1万人近くいた住民は約6千200人になり、令和6年3月時点での高齢化率は約45%という。現在はこの団地の22戸に部員約60人らが暮らす。 同部の大森酉三郎(ゆうざぶろう)監督が神奈川県住宅供給公社に打診し、令和2年3月、学生の健全育成と地域の活性化を目的に、神奈川大学と同公社が連携協定を締結。部員の団地への入居が始まった。 大森監督はその狙いを「全寮制にすればサッカーの強化にもなるし、団地は(高齢化社会という)日本の未来。部員の社会性も育まれるし、いろいろな勉強ができると思った」と語る。 周辺の清掃活動への参加から始まった地元との交流はその後、お年寄りを対象にした「スマホ教室」や「介護予防教室」の開催、団地内の空き店舗を利用した部の食堂をカフェとして開放することなどで、深まっていった。 また、放課後に小学生の勉強をサポートする「宿題応援団」としても活動。地元の緑消防団に入団する部員も現れる浸透ぶりで、竹山連合自治会の吉川勝会長は「すっかり親しくしてもらい、仲良くなれた。町も元気になった」と語る。 ■「自分を変えてくれた」 住民側も芋煮会を開くなどし、部員らを歓待した。いまでは同部の試合に応援に出かける人たちもおり、得点を挙げた選手が試合中に駆け寄ってきて、ハイタッチして喜びを分かち合うこともあるという。 同部4年の佐藤瑠意さんは「自分自身を変えてくれた環境。いろいろな方々と話をしていくうちに、人とコミュニケーションをとることは楽しいと感じるようになった」と振り返る。 昨年12月には新たな活動拠点として、商店街の文房具店跡地に低酸素トレーニング施設「空気研究所 竹山エアラボ」、銀行跡地に多目的施設「未来研究所 竹山セントラル」が完成した。同部が地域活動を進めるために設立したNPO法人「KUSC」と神奈川大学、同公社の3者で整備。両施設とも、住民の利用を念頭に、令和7年4月から本格稼働する予定という。
活動基盤が大きく整備され、新たな展開に期待が膨らむ。大森監督は「今後も地域で信頼を得ながら、活動を深掘りしていきたい」と先を見据える。(橋本謙太郎)