藤本タツキの漫画に対する並々ならぬ思いや気迫が迫りくる『ルックバック』など週末観るならこの3本!
MOVIE WALKER PRESSスタッフが、いま観てほしい映像作品3本を(独断と偏見で)紹介する連載企画「今週の☆☆☆」。今週は、藤本タツキによる青春物語を原作とする劇場アニメ、「クワイエット・プレイス」シリーズのはじまりの日を描く最新作、フィリップ・ド・ブロカ&ジャン=ポール・ベルモンドが放つスパイコメディの、ドキドキする3本。 【写真を見る】“漫画へのひたむきな思い“でつながった2人の少女の青春を描く(『ルックバック』) ■漫画に生涯を捧げるような姿に胸をつかまれる…『ルックバック』(公開中) 「チェンソーマン」で知られる藤本タツキが2021年に発表した、同名の読み切り漫画をアニメ映画化。実力派の押山清高が監督、脚本、キャラクターデザインを務め、河合優実と吉田美月喜がみずみずしい演技を披露している。小学校の学年新聞で4コマ漫画を描いていた主人公、藤野と不登校児の京本が、タッグを組み中学生で漫画家デビュー。17歳で出版社から連載を持ち掛けられるが、京本が美大への進学を希望したことでコンビは解消。藤野はアシスタントを雇い1人で連載に没頭していたが…。 藤野と京本の友情や、漫画に生涯を捧げるような姿にグッと胸をつかまれていると、突如として訪れる意外性あふれる衝撃的展開に思わず声をあげてしまう。誰でも「もしもあの時、○○だったら」と、後悔の一つや二つはあるはず。そんな時よく「振り返るな」と言うが、この作品のタイトルは『ルックバック』(振り返れ)だ。藤野が振り返ったその先にあったものとは?後悔は時に“原点“という気づきを与え、二度と後悔しないために前へと進む原動力ともなる。藤本タツキの漫画に対する、並々ならぬ思いや気迫が迫りくるような作品だ。(ライター・榑林史章) ■単なるサバイバルホラーに終わらない、名シリーズの前日譚…『クワイエット・プレイス:DAY 1』(公開中) 低予算で制作されながらも大ヒットを記録したサバイバルホラー映画「クワイエット・プレイス」のシリーズ3作目は、時間をさかのぼり、音を立てれば即襲いかかる“なにか”が現れ世界の崩壊が始まった最初の日を描く。主人公は、末期癌を患う女性、サミラ(ルピタ・ニョンゴ)。宣告された余命よりも長く生きながらえながらも、自分の命がわずかであることを自覚していた彼女が、自身の思い出の地であるニューヨークに出かけた日に、宇宙から飛来した音に反応して襲いかかる謎の生物によって、巨大都市は惨劇に見舞われる。街が危険な場所になるなか、愛猫と一緒に思い出の地であるハーレムに向かうサミラは、途中で出会った男性、エリック(ジョセフ・クイン)と行動をともにする。 前2作からストーリーや世界観の描かれ方が大きくスケールアップ。巨大都市ニューヨークを舞台に、大量に跋扈する音に反応して襲いかかる“なにか”から逃れる決死のサバイバルが展開。そこに自分の死を間近に感じながらも、ちょっとした目的のために死が目の前にある危険な都市で必至に生き延びようとするサミラの“死生観”が重ねて描かれることで、単なるサバイバルホラーでは終わらない、“生きる”ための深みを感じさせる作品に仕上がっている。(映画ライター・石井誠) ■物語のひねり、映画的ツイストが全篇に効いている…『おかしなおかしな大冒険』(公開中) あのフランスの国民的大スター、映画史に(永遠に!)輝くアクターの奇蹟の祭典、「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」がついにグランドフィナーレに。どれも必見なのだけれども、なにを置いても駆けつけたいのが彼と長年名タッグを組んできたフィリップ・ド・ブロカ監督との「現実vs,虚構」コメディ『おかしなおかしな大冒険』(74)だ。原題『Le Magnifique』さながらに、「偉大にして壮大な」、「素晴らしい」作品なのだが、物語のひねり、映画的ツイストが全篇に効いている。ベルモンドの役柄は中年小説家。マッチョ男が主人公のスパイ冒険活劇シリーズで食い繋ぐ日々。アパート内にはジャクリーン・ビセット扮する社会心理学専攻の女子大生がいて、今回の新作も彼の空想が文字上で炸裂、地味で冴えない自分と憧れの彼女を(勝手に作り変えて)メインキャラに。メキシコのアカプルコを舞台に「007ばりの活躍」へと転化されてゆくのだった。 ところが!執筆中にその女子大生と現実でも接点が。出版社のいけ好かない編集長も巻き込んで空想は妄想にパワーアップ。日常と交錯し、虚構に現実が、はたまた現実に虚構が侵食していって、まるで赤塚不二夫や筒井廉隆のようなドタバタな奇想が展開するのだ。こういう映画やマンガでしかできない世界を身を以て体現させてしまうのがベルモンドという俳優の凄さ。ちなみにヒロイン、ビセットの代表的主演作、フランソワ・トリュフォー監督の『映画に愛をこめて アメリカの夜』(74)と同じ1973年に世界公開され(日本は翌年)、何と半世紀ぶりのスクリーン上映となる。グランドフィナーレを飾る初出しのもう2作、クロード・ルルーシュ監督との『ライオンと呼ばれた男』(88)は、ベルモンド映画賛歌にして彼に初のセザール賞主演男優賞をもたらし、ジャン・ヴァルジャン含め3役を兼ねた『レ・ミゼラブル』(95)はご存知「レミゼ」の作劇概念をひっくり返す大胆なアレンジに魅了される。2021年の国葬でマクロン大統領がこう捧げた通り、ジャン=ポール・ベルモンドとは「永遠のLe Magnifique」なのである。(映画ライター・轟夕起夫) 映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。 構成/サンクレイオ翼
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