大谷翔平、山本由伸WS制覇も大リーグの“草刈り場”日本球界の将来を論議する時機かも/寺尾で候
<寺尾で候> 日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。 【写真】フリーマンの妻「夢がかなったわ」長男と大谷翔平のツーショット ◇ ◇ ◇ 本場が“世界一決戦”と位置づける「ワールドシリーズ」は、ドジャースがヤンキースを4勝1敗で下して幕を下ろした。昨年3月の「WBC」は日本が勝ち抜いた。 どちらが世界一を決める「頂上決戦」かの意見は分かれるが、どちらも制したのが、大谷翔平、山本由伸だったのは誇らしい。米国内で日本人プレーヤーの存在はいかに評されているのだろうか。 来日した米エール大学名誉教授のウィリアム・ケリーは「来年は野茂がアメリカに来て30年になります」といって切り出した。 「最初は日本人といっても、キューバとか、メキシコ、プエルトリコなどから来る1人のプレーヤーと同じだったし、実際、話題にならなかった。あなたもその時代をよく知っているはずです。でも野茂がきて、松井、イチロー、ダイスケ…らが、こちらでもスターになった。ダルビッシュ、山本、今永が示すように日本の野球レベルは認められています」 文化人類学を専門とするケリーは長年にわたって両国を行き来し、海の向こうから日本を見てきた。ある年は米国人の彼から「ボストン美術館で北斎展をやってるから来ませんか?」と誘われるほどで、日本文化にも精通している。今回は山形で農業に関する講演で訪日した。 ボストン郊外に住んでいるレッドソックスファンだけに、地元でWシリーズに勝った松坂大輔のことだけは「ダイスケ」と親しみを込める。日米の野球を知り尽くす識者が、成功する日本人に注目しているのは「個」だという。 「アメリカでもスターになった彼らに共通するのは独特なパーソナリティーだと思います。大リーグで成功した日本人を比較して判断すると個性がある。それはこちらでアスリートとして生き抜くのに重要なことだ。野茂はもちろんだけど、イチローと松井もタイプが違いますからね」 米国内では東西で時差があるため「前は大谷をみることはほとんどなかったが、今は翌朝のダイジェストでチェックしています」という。 「大谷がもつパーソナリティーは言うまでもないが、彼を“二刀流”というけど、実は“三刀流”です。打って、投げて、走ってだからね。ベーブ・ルースは全然走れなかった。ドジャースで盗塁というと、モーリー・ウィルス(史上初3桁のシーズン104盗塁を記録、6度の盗塁王)が思い当たる。大谷は体が大きいのに足が速い。しかも速いだけでなく賢いですよ」 日本の野球人気は、大谷が主役だったWBCで頂点に立った歓喜に引きずられてきた感が強い。日本人の大リーグ流出は引きも切らない。 「例えばジャッキー・ロビンソン(大リーグ初の黒人選手)がメジャー入りする前時代は、アメリカとキューバの野球は同じレベルでした。でもメジャーがだんだんキューバのトップ選手を獲得していったことで、キューバの国内レベルが低くなっていった。それはメキシコにも言えることです。日本からメジャーへという流れは止まらないでしょうね」 世界から認められるのは素直に歓迎したい。しかし大リーグの“草刈り場”になりつつある現状で、ルールも含めた日本球界の将来ビジョンを真剣に論議する時機かもしれない。(敬称略)