トランプ政権でESG投資ブームが“終了”か…証券会社営業マンのセールストークに使いまわされた末路
シンガポールのイベントでも主要テーマは「ESG」
「トランプ2.0」といっても最長で4年。一方、石油依存の経済構造を変えるというサウジの国是は「ビジョン2030」という計画名が示すとおり、それを超える。「サステナビリティー/ESG2.0」という言葉を聞いたのも、砂漠のダボスに集った米系投資家の口からだ。 FIIの翌週、筆者は休暇を兼ねてシンガポールを訪れた。世界中から6.5万人が集ったメガイベント「SFF」(シンガポール・フィンテック・フェスティバル)に出席することも目的のひとつだった。会期中に聞いたのが、「トランプ氏勝利」だった。 SFFの主要テーマのひとつはESGだった。ここ数年、テックの力でいかにESG投資の精度を向上させるかに、関心が集まっている。今年はシンガポール南洋理工大学のユン准教授が「人工衛星からの画像データを使って高い精度で森林破壊の状況が分かるようになった」と報告。会場の投資関係者の関心を集めた。
データに裏打ちされたESG投資は綺麗事ではなく「科学」
森林破壊は脱炭素や生態系の保護、さらには農園での労働環境など、多様なESGテーマにつながっている。衛星データを使った自然破壊や強制労働の実態把握はすでに始まっており、資産運用会社が投資対象企業の持続可能性を、客観的に評価できる日も遠くない。データに裏打ちされたESG投資は綺麗事ではなく、科学だ。 「ESG投資の成り立ち、実践と未来」(日本経済新聞出版)の共著を持つコロンビア大学客員教授、本田桂子氏がよく引き合いに出すのが、米エネルギー会社PG&Eの事例だ。 「北米西海岸では、気候変動により乾燥した地域で火災が増加し、それが延焼するようになってきている。カリフォルニア州の電力・ガス会社のPG&E(Pacific Gas &Electric)は、カリフォルニア州で電力を供給している。(中略)2018年11月8日に送電網のスパークから大規模火災が発生した。少なくとも85人が亡くなり、一般市民12人と消防士5人が負傷した。1万8000棟の建物に火がおよび、延焼面積は620平方キロメートルに及んだ。総被害額は少なくとも165億ドル(2兆1450億円)とされ、PG&Eは2019年1月28日に会社更生法を申請した株価も当然暴落した」 「ところが、ある資産運用会社nESGチームは(匿名を条件に話してくれたが)、この大火事以前に、PG&Eの気候変動適応(E対応)が不十分として警鐘を鳴らしており、その運用会社は山火事の前に当時保有していたPG&Eの株式・債券共に売却していた。投資家としてEを考慮に入れることで、リスクマネジメントができた」 ESGがリスク管理のツールとして機能することをよく示す事例だ、と本田氏は強調している。