海外資本は流出、中国本土資本は減速。「繁栄維持したいが…」揺れ動く香港市民の胸中
国際金融都市・香港が米中対立のはざまで揺れている。 中国本土の政治的影響がじわりと増し、海外資本は流出。これに代わる中国本土資本も不動産不況の影響などで減速傾向にあり、その国際性の「空洞化」が懸念されている。一方で2025年は対中強硬姿勢が予想される米トランプ政権が始動する年。中国にとって「香港」という世界の窓の存在価値はあがっているのだが……。 【全画像をみる】海外資本は流出、中国本土資本は減速。「繁栄維持したいが…」揺れ動く香港市民の胸中 「政治は変化しても香港市民の気質の根っこの部分は変わらない」 こう語るのは香港の日系警備会社「東洋警備有限公司」取締役、岩見龍馬氏だ。 日本人柔道家と現地人母親のもとに生まれ、日本と香港の両社会を熟知するだけに、近年中国本土の政治的影響が増しても「香港市民個々は国際金融都市生まれであることに高いプライドを持っており、経済面でのダイナミックさを維持しようと躍起なのです」と証言した。 父親が銅鑼湾(コーズウェイベイ)で半世紀以上運営し、門弟1万人以上を輩出した柔道場「香港柔道館」は、父の他界やコロナ禍を機に2年前に閉鎖したが、2024年11月9日夜、岩見氏はその後継的位置づけの柔道クラブ「講友館」の稽古に参加し、香港市民や日本人、他のアジアや欧米人ら老若男女が和気あいあいと稽古に汗を流す姿を指して、「この多様性こそが香港の魅力」と強調。 中国本土の政治的影響増大に対する2019年の大規模抗議デモや2020年の国家安全維持法の導入などで香港市民の意識が二分されるという影をひきずりながらも、「変わらぬ繁栄を維持したい」という強い思いを吐露した。 しかし、「経済に政治の影響がおよんでいるのは明白」と指摘する日本人駐在員も少なくない。 事実、現地紙、本土系紙、英字紙など多彩な新聞・メディアの存在も香港の特徴だが、中国本土に対する厳しい論調で知られた大衆紙「蘋果日報」(ひんかにっぽう=アップルデイリー)の創業者・黎智英(ジミー・ライ)氏は香港国家安全維持法(国安法)により外国勢力と結託した罪などに問われ逮捕、拘留。同紙も2021年に廃刊となった。 11月19日には香港の裁判所が、立法会(議会)選の候補者を調整する目的で2020年7月に実施された民主派の予備選に絡み、国安法の国家政権転覆共謀罪(最高刑・終身刑)で起訴され、有罪判決を受けた民主派14人と罪を認めていた同31人の全員に、禁錮4年2月~10年の実刑を言い渡した。これは中国本土の習近平政権が2020年6月に導入した国安法の違反事件のうち最大規模の裁判であり、内外の関心を集めていた。この実刑判決によって、香港の民主派の活動は一段と沈黙を強いられることになった。 こうした影響は観光や学術面にも及んでいる。先述の日本人駐在員は「たとえば博物館の名称や展示内容も変わりはじめた」と証言する。 香港の海上防衛がテーマだった「香港海防博物館」は、「香港抗戦及海防博物館」と名称変更して2024年9月3日に開館セレモニーを挙行。翌日一般公開された。 香港政府は2019年の反政府デモの背景には、若者らが欧米の思考に感化されていることがあげられると判断。博物館には「愛国精神を伝承する使命」があるとし、香港政府トップの李家超行政長官は昨年「民族の自信と愛国精神を引き上げる」目的で、改修と名称変更を行うと表明。愛国教育強化姿勢をアピールしていた。
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