吉岡里帆「脳がスパークする感じ」自身初の洋画吹替で感じた新たな感覚:インタビュー
俳優の吉岡里帆が、映画『トランスフォーマー/ONE』(9月20日公開)に日本語吹替版キャストとして出演。エネルゴン採掘チームをまとめ上げる女性指揮官のエリータ-1を演じる。シリーズ全7作が世界で大ヒットを記録した「トランスフォーマー」シリーズ最新作『トランスフォーマー/ONE』。ストーリーは『トランスフォーマー』の起源に迫る始まりの物語。トランスフォーム能力の秘密や、トランスフォーマーの故郷サイバトロン星、 そしてシリーズを代表するヒーローと宿敵、オプティマスプライム(CV:中村悠一)とメガトロン(CV:木村昴)の友情が明らかになる。インタビューでは、自身初の洋画吹替に臨むにあたりボイトレから始めたというアフレコの背景、メガトロンに感情移入してしまったという理由について、吉岡に話を聞いた。(取材・撮影=村上順一) 【写真】吉岡里帆、撮り下ろしカット ■エリータ-1と共鳴しているような感覚があった ――吹替にあたり、低音を意識されてアフレコに臨んだとのことですが、どのようなトレーニングを? いろいろな方にどんな先生に教えていただいたらいいのか相談していたのですが、今回声優さんや吹替を本格的に指導されている先生をご紹介いただき、指導をお願いしました。 その先生に英語版のエリータ-1はスカーレット・ヨハンソンさんが担当されることをお伝えしたところ、「キーの高いかわいい声色ではなく、パワフルで響く感じが出せないと声が当たらないから、丹田から鍛え直しましょう」ということになりました。 ――声のお仕事に興味はありましたか。 声のお仕事はずっとやりたいと思っていました。ありがたいことにナレーションなどをさせていただいて、これからも続けていきたいと思っていたので、こうやって吹替のお仕事をいただけてとても光栄です。今回の先生とのボイトレでは、走ったり、飛んだり、戦ったりといったアクションにリンクするような声、戦う人の声を意識してトレーニングしました。 ――精神面でご準備されたことは? 労働者ロボットだったオプティマスとメガトロンが、自分にも可能性があるんだと気付くシーンがあるのですが、それを私自身にも重ねて、脚本を読んで感動しました。自分の可能性を信じる力を4人のキャラクターから学び、弱い部分を見せないというのは、精神面で大切にしていました。 ――『トランスフォーマー』シリーズは以前から観られていました? 全作は観られていないのですが、収録に向けて準備する中で本作で音響監督を務めてくださる岩浪(美和)監督がアニメシリーズでも監督をされていたことを知りました。『トランスフォーマー/ビースト覚醒』の制作が発表された際、ファンの方の熱量が非常に高くて、「岩浪さんじゃなければ嫌だ」といったネットのコメントから、岩浪監督がキャスティングされたと聞いて、これはすごいことだと思い、すぐに80年代のアニメーションを拝見しました。洋画のイメージがあったので、もともとは子どもたちが好きなロボットから来ているんだと、アニメーションは親近感が湧きました。映画シリーズの方はどんな風に吹替されているのか興味深かったので、じっくり確認しながら観ていました。 ――岩浪さんとの印象的なやりとりはありましたか。 岩浪監督の演出で、私も大事だなと思ったのは、声が甘くならないようにということでした。一度アフレコしたものを聞かせていただいて、少しでも声に甘さが出ていると感じたらやり直しさせていただきました。指揮官らしいリーダー的な雰囲気が出るように、岩浪監督と相談しながら進めていきました。 ――作品ではユーモアのある部分もあります。 エリータ-1はバンブルビーにツッコミを入れるセリフが多いのですが、個人的にそこが大好きなんです。監督は、「2人のやりとりはもっとふざけてもいい、笑いの要素強めでいいよ」とおっしゃっていて、笑いのさじ加減も話し合いながら進めていきました。アメリカンジョークを織り交ぜてテンポよく話すのは難しいですが、上手く行った時は聞いていて心地良く感じるので、そうなるように試行錯誤しました。 ――本作で何か目覚めたような感覚はありましたか。 エリータ-1が車にトランスフォームして、ガラスの壁を走っていくシーンがあるのですが、現実にはないことなので、脳がスパークする感じというか、非現実的な体験をしているようで、脳が刺激される感覚がありました(笑)。アフレコ中は私がエリータ-1の後ろで走っているような感覚といいますか、エリータ-1に乗っとられるような感覚があり、ただ立ってアフレコしているだけなのに、気づいたらたくさん汗をかいていました。身体と声がエリータ-1に奪われているような、エリータ-1と共鳴しているような感覚がありました。 ――アフレコは順録り? はい。最初のシーンが本当に難しくて。何回やっても声が掠れてしまって、テイク数を重ねてしまいました。空を飛びながら部下を引っ張っていくところや、オプティマスに対して間髪入れずにツッコミを入れるところも、監督は強さを求めていました。特に飛びながら喋る、叫ぶというのはこんなに難しいんだと痛感しました。最初はセリフの音だけを流してもらっていたのですが、乗り物の音や効果音を入れた状態でアフレコさせてほしいとお願いして、コツを掴むまでチャレンジしました。 ――完成した映像を観ていかがでした? アフレコをしているときはまだ映像が完成していなかったので、初号試写を観たときに、「こんな感じだったんだ!」とあまりの精細さに驚きました。1時間45分ほどの作品なのですが、体感1時間くらいに感じるほど、細やかなアイデアや見どころが至るところに散りばめられています。ストーリーではオプティマスたちが初めてトランスフォームをするシーンはそれぞれの想いが伝わってきて思わず泣きそうになりました。トランスフォームが不完全なところは、どこか人間味を感じさせてくれました。 ■メガトロンに感情移入 ――お気に入りのセリフはありますか。 アフレコ中はエリータ-1に集中していたのですが、初号試写を観たときは、メガトロンに感情移入していました。メガトロンが悪に染まってしまった理由が切なく、その後自分の道を切り拓いていくところがヴィラン(「悪党」「悪者」「悪役」を意味する言葉)としてかっこよく見えて。オプティマスが「一緒に未来を築きたかった」と言ったときに、メガトロンは「自分で未来は築く」と、1人で戦っていく覚悟を感じさせたそのセリフには切なさがあり、グッときました。 ――切ないシーンですよね。 メガトロンは『トランスフォーマー』シリーズで、完全悪だと思われていたと思いますが、本作で印象が変わるところにグッときました。正義のカタチにもいろいろあって、それぞれが自分の正義を信じているから切ないんですよね。また、その後を知っているだけにオプティマスとメガトロンが親友だったことが熱いですよね。オプティマスがメガトロンにシールをプレゼントするシーンは、二人とも可愛くてとてもキュンとしました。純粋にヒーローに憧れている少年のような二人に、母性本能をくすぐられるような愛おしさがありました。 ――ヴィランに注目するようになったきっかけは? 幼い頃は「ヒーロー最高!」という感じでした(笑)。だんだん素直に表現できないことがこの世にはたくさんあるなと、大人になるにつれて気づきました。自分の殻、知識やしがらみが加わって、良くも悪くも子供のときのように素直に言えなくなって、大人になるにつれてヴィランの切なさのようなものが、わかるようになってきたからだと思います。ただ、『トランスフォーマー/ONE』はメガトロンを完全な悪者にしないように書かれていて、ヴィランの魅力を描き切るすごさを感じました。 ――最後に声のお仕事の醍醐味はどんなところにあると感じていますか。 自分が出演するお芝居は、身体や動作など全て自分で表現していくところが大きいんです。先日からNHKさんで人形劇の声をやらせていただいて、自分ではないものに寄り添う、命を吹き込むことが楽しいと思いました。私がこの世界に入ったのも、裏側のカッコ良さに感動したことがきっかけだったので、みんなが作り上げたものに一緒に参加できることに、誇らしさを感じています。 (おわり)