タクシー強盗「検挙率100%」を支える防犯対策 減少傾向にある犯罪が“割に合わない”といえる理由
デジタル化も検挙率アップを後押し
社会のデジタル化も検挙率向上に貢献している。電子マネーによる運賃支払いの普及で、車内への現金持ち込みが最小限になっていることに加え、昨今は、各社がタクシーの配車にアプリを活用するケースも一般的になった。その結果、犯罪発生時には、アプリデータを活用し、容疑者の動きを追えるようになった。 たとえばタクシーアプリ「GO」を展開するGO(株)は、「捜査機関から法令に基づく照会があった場合、該当者の移動データを提供するなど、捜査協力を行っています」と警察当局との事案発生時の密な連携を明かす。併せて、タクシー会社はドライブレコーダーの映像を捜査機関に提供するなど、犯人検挙を全面サポートする。 タクシー車内およびその周辺は全方位で監視された状態となり、強盗を行い逃げ切るのは極めて困難という実状だ。
タクシー強盗罪の法定刑
タクシー強盗に科せられる罪は重い。最も典型的な罪名は、刑法第236条1項の「強盗罪」だ。ドライバーを殴ったり、刃物をみせ、「金を出せ」と脅したりして売上金を奪うといった行為が処罰対象として該当する。 タクシー強盗の場合、刑法第236条2項に、1項と同様の方法で財産上不法の利益を得たり、他人に得をさせたりした者も強盗罪にするという規定があり、「強盗利得罪」に問われる可能性もある。 具体的には、殴る、蹴るなどの暴行や危害を加える旨を告げて脅したうえで、料金を踏み倒し逃走した場合、同罪が成立し得る。酔った勢いや運転手とのトラブルだったとしても”強盗”になるリスクがあるということだ。 売上金などの強奪目的で運転手を暴行し、ケガを負わせたり、死亡させたりした場合は、刑法第240条の「強盗致死傷罪」が成立する。死亡した場合は「強盗致死罪」となり、特に厳しく罰せられる。 上記に関する罪の法定刑は、「強盗罪」「強盗利得罪」が5年以上の有期懲役。「強盗致死傷罪」は、致傷なら無期または6年以上の有期懲役、致死なら死刑または無期懲役が科せられる。3年を超える懲役には執行猶予がつかないので、仮に強盗罪で有罪になれば刑務所収監は免れず、かなりの厳罰といえる。 あくまで参考だが、都内のタクシー強盗の平均被害額は、数年前のデータ(東京ハイヤー・タクシー交通共済協同組合)で8000円前後とされる。この金額とタクシー会社の防犯対策および100%の検挙率、5年以上の有期懲役等もあり得る罪の重さ等を考慮すれば、タクシー強盗は極めて “割に合わない”犯罪といえよう。
弁護士JP編集部