米空母・カールビンソンの艦載機FA-18になぜ新型ミサイル「SM6」が搭載されたのか?
「1200㎞先までは分かりませんが、1000㎞先の目標は撃破できることになります。まさにアメリカ海軍はそれをこのミサイルに期待していると考えます」(柿谷氏) すると、中国軍御自慢の本土から発射する長距離地対艦ミサイルを、最初にFA-18に搭載のSM6で迎撃したうえに、米空母と輪形陣を組むイージス艦搭載のSM3とSM6で撃ち落とせる。さらに、1000km圏内にいる中国艦艇を撃沈可能となる。 「中国軍からの各種ミサイルの飽和攻撃に対するMD防御力と、1000km以内の対艦攻撃力が大幅にアップします。SM6搭載FA-18は、米空母艦隊の防御と攻撃能力を激変させるということです」(柿谷氏) 1990年代に沖縄302飛行隊でスクランブル任務に就き、当時の米空母の実力を大空で体験した元航空自衛隊空将補の杉山政樹氏はこう言う。 「90年代に私が沖縄で経験したのは、いま話題になっている南大東島の西太平洋上に国籍不明の飛行機が飛んでいるから、そのID(視覚確認)を取ってきてくれ、という任務でした。 スクランブルで上昇し、空母から100マイルも離れた洋上で、空自のレーダーサイトからの情報なしに、いつのまにか自分たちの両サイドをF-14に取り囲まれていた。そうして向こうからIDを取られた、という次第です。その当時、F-14は能力的に最高域の戦闘機でしたから」(杉山氏) そのF-14に搭載されていたフェニックスミサイル(射程150km)とは、当時どう伝わっていたのだろうか。 「F-14のレーダーとコンピューターで24個の標的を確認して、そのうち脅威になるものを2個ぐらい選び、そこにその対空ミサイルを撃つ。 格闘戦で一対一の空戦をする前、これから戦闘空域に入るぞという段階で、バシバシと撃ち始めるのが当時のF-14の考え方でした」(杉山氏) まさに最強の戦闘機がF-14だったのだ。 「攻撃型空母というのは、基本的に兵器のパワープロジェクション(戦力投射)能力、つまり、自分たちの力をどのように相手に知らせるかがその役割です。 米空母のその能力を発揮したのが、1996年3月、第三次台湾海峡危機の時です。米軍は二個空母機動隊を台湾海峡に入れて、中国の台湾侵攻を思い止まらせました」(杉山氏) では2024年の現在、この米空母艦載機FA-18にSM6を搭載する意味はなんなのだろうか? 「米海軍大将であるインド太平洋軍のサミュエル・パパロ司令官が、『台湾海峡を無人機で火の海にすると、米軍が来援するのは一ヵ月先』と発言しました。 しかし、米国防省からも日米同盟として、少なくとも自分たちの戦力を投射できるような形を維持しないとならない。そんな判断からこのSM6搭載につながったと思います。 空母輪形陣がいま対処したいのは、弾道ミサイル、巡航ミサイルなど、空からの攻撃にどう備えるかです。その確率を上げるためには、発射機の数を増やさないとならない。すると、イージス艦を1、2隻増やすよりSM6をFA-18に搭載すれば、もっと数の多い発射手段が持てる、という流れだと思います」(杉山氏) すると、このSM6搭載のFA-18を矢面に立てて、台湾海峡に米空母艦隊は再び突っ込むのであろうか。 「米空母艦隊はいま、そうした運用の練習をしています。しかし、これが作戦に組み込まれるかは疑問ですね。中国沿岸部の攻撃で、米空母が1隻やられるのは厳しいと思います。 ただし、戦闘が始まる前にすでに台湾海峡に米空母が入れる可能性は無きしにもあらずです。その状況なら、米空母は中国に先制攻撃するわけです。そして、そんな決戦を請け負った場合には、SM6搭載のFA-18というツールがあるということです。 軍人は必ず事前に訓練をして、演習などいろいろな可能性を必ず探ります。今回のお披露目は、そういった範疇だと思います。 要するに、危険領域に入っていく可能性もありますと演習で見せて、入っていくとは言っていない。米海軍は、米海兵隊、米空軍と同じ歩みをしていますよ、という意思を見せているのだと思います」(柿谷氏) 取材・文/小峯隆生