<「年収の壁」問題を整理する>「103万円の壁」はなぜ変えるべきか?政党間議論の問題点
「103万円の壁」の問題点:(4)高齢者優遇
「103万円の壁」を178万円にまで引き上げるとして、差額の75万円を基礎控除で引き上げるのか、給与所得控除で引き上げるのかで、世代で見て著しい不公平が生じてしまう。 実は、公的年金受給者の公的年金控除は現役世代の控除よりも優遇されている。先に見たように、給与所得控除は55万円であるのに対して、公的年金等控除は65歳以上の受給者の場合110万円と2倍となっている。 給与所得者であれば、スーツや情報収集に係るコスト、持ち運び用のパソコンなど仕事上で使用するための支出があり、そのための控除(実際には税務当局が一律に決めた必要経費相当額)があるのは理解できるが、公的年金を受け取るための必要経費とはなんだろうか。筆者は公的年金等控除は不要であり、所得控除の財源がないのであれば公的年金等控除を廃止すればよいと考えている。 それはさておき、65歳以上の公的年金受給者の場合、公的年金等控除に加えて基礎控除もあるので、158万円まで課税されていない。明らかに現役世代に比べて過剰だ。 このとき、「103万円の壁」の178万円までの引き上げが基礎控除の引き上げで実行されるとすれば、つまり、基礎控除が48万円から123万円に引き上げられるとすれば、公的年金等控除とあわせて240万円まで控除される計算となる。 この場合、厚生年金受給者の実に85.2%が税負担を免れるので、年金生活者のほとんどが非課税世帯になる。これでは「現役世代の手取り」より「年金生活者の手取り」の方が増えてしまうし、医療の窓口負担も1割となるなど高齢者優遇策と言えるだろう。 「103万円の壁」引き上げは、インフレによって膨らんだ最低生活費や会社員の必要経費を補填する取り組みであることは明らかなので、財源問題に矮小化することなく、国民の基本的人権を守る政府の当然の責務として実現するのが筋だ。 ただし、基礎控除を引き上げるのか、給与所得控除を引き上げるのかによって、現役世代よりも高齢世代をより重視した政策になってしまう。基礎控除の引き上げを行うならば財源捻出も兼ねて不公平な公的年金等控除を廃止してはどうだろうか。 自民、公明、国民民主の3党が「年収103万円の壁」を見直すことで合意したとの報道もなされているが、ちょうど昨年の同じ時期、ガソリン税のトリガー条項の凍結解除をめぐって、自民・公明両党と国民民主党の間の約束が最終的に反故にされた記憶も新しい。 われわれ国民は3党の議論をしっかり見守っていく必要があるだろう。
島澤 諭