<「年収の壁」問題を整理する>「103万円の壁」はなぜ変えるべきか?政党間議論の問題点
こうした30年近く据え置かれてきた所得控除のあり方に異を唱えたのが国民民主党であり、178万円への引き上げを主張している。昨今の物価高、実質賃金の低迷などに苦しむ現役世代に「手取り増」として、魅力的な政策に映ったのは間違いない。 では、なぜ、178万円なのか。その根拠としては、国民民主党は1995年の最低賃金611円と比較した現在の最低賃金1055円が1.73倍になっていることを挙げている。ただし、これまで所得控除の引き上げは、インフレ調整の手段とされてきており、その観点からは例えば消費者物価指数(総合)で試算すれば143万円への引き上げが妥当な水準となる。 なお、最低生活費に関しては、そのほかにも様々な考え方があるだろう。
「103万円の壁」の問題点:(3)税の減収
「103万円の壁」を、仮に国民民主党の主張の通り178万円に引き上げるとすれば、政府の試算によると、国と地方の合計で年間約7兆6000億円の税収減になるとのことだ。確かに、税を取る側の政府目線では税収に穴が空いた分の財源補填をどうするのかは一大事であるが、物価の変動や所得水準の上昇にも関わらず、30年近くに渡って所得控除額が据え置かれるという政治の怠慢を考えるならば、われわれ納税者から見れば取られすぎていた分を取り戻すにすぎない。取りすぎた分を勝手に財源として支出してきた政府がその分の歳出を削減することで財源を捻出すればよいということになるだろう。 そもそも、2012年12月26日に始まった第2次安倍晋三政権以降、政府が進めてきたインフレ政策なのだから、インフレに伴う最低生活費の確保に関する財源が存在しないなどという言い訳は見苦しいだけだろう。また、年金をすでに受け取っている既裁定者は、インフレにより年金額が調整される物価スライドが適用されるが、物価スライド実施のための財源を別途どう用意するかなどという議論は聞いたことがない。保険料収入、国庫負担、積立金などの収入から自動的に確保されているからだ。 今回の「103万円の壁」引き上げに関する財源も税収の範囲内で工面するのは当然の責務といえる。それとも高齢世代の生活費確保には財源問題は生じないが、現役世代の最低生活費確保には財源問題が生じるというのが、政府の立場なのだろうか。