米「スポット取引」高騰なぜ? 流通量不足、利ざや期待の業者も
米の需給逼迫(ひっぱく)を受けて、スポットで米を手当てする業者間の取引価格が前年比7、8割高と急騰している。ただ、スーパーの店頭価格や大部分の取引価格は小幅な上げにとどまり、米を巡る値動きの違いに産地や流通業者では戸惑いが広がる。米の流通で何が起きているのか探った。
米の情報調査会社・米穀データバンクによると、スポット市場での主力銘柄の秋田「あきたこまち」の5月末時点の60キロ価格(税別)は2万5500円で、9月から7割上げた。青森「まっしぐら」が2万3000円、茨城「コシヒカリ」が2万4500円となるなど、軒並み異例の高水準だ。一方で、産地と卸間の相対取引は9月以降横ばいで、スーパーの店頭価格も数百円の上げにとどまる。 なぜスポット相場だけが急騰しているのか。スポット取引で売買される銘柄は実需との契約が済んでいない米だが、現状そのような米はほとんどない。猛暑の影響を強く受けた2023年産米の流通量が少ないからだ。しかし、不足感から米を欲しがる業者は多い。市場関係者は「売り手が出た瞬間に取引が成約となってしまい、米が取り合いになっている」と明かす。 相場に先高観が出ていることも価格がつり上がる要因だ。業界関係者は「利ざやでもうけようとするブローカーがいる他、相場上昇を見越して売り渋る動きが品薄に拍車をかけている」と話す。
店頭は安定 相場独り歩きに懸念
ただ、スポット市場で取引される米の量はわずかだ。 国内のスポット市場で取り扱われている米の量は年間需要量の数%に過ぎない。大手米卸は「スポット価格はあくまで局所的な数字。23年産米全体の相場ではない」と指摘する。 多くの生産者、卸、スーパーなどは、安定した取引を望んでいる。スーパーの店頭を見ても、相対価格の値動きに比較的沿った価格設定となっている。米流通の大部分では、スポット市場の価格のような混乱は起きていない。 24年産米価格の居所に注目が集まっている。現状の米価は上向いているものの、高止まりする生産コストを転嫁する途上にある。産地関係者には「急騰するスポット相場が独り歩きして主食用米を増やす動きが広がれば、米価が急落しかねない」とした懸念がある。 持続的な米の生産に向けては、長期的な視点で農家所得を向上させることが重要となる。
日本農業新聞