「もうすぐ我が家に帰れる」...帰宅中のロシアの”英雄”ナワリヌイ氏に『あの悲劇』が起こるまで
真のロシア愛国者「アレクセイ・ナワリヌイ」がプーチン独裁政治の闇を暴く『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』が、全世界で緊急同時出版された。1976年にモスクワ近郊で生まれたナワリヌイが目にしたのは、チェルノブイリ原発、アフガン侵攻、ソ連崩壊、上層部の汚職、そして「ウクライナ侵攻」だった。政治とカネ問題、超富裕層の富の独占、腐った老いぼれに国を支配される屈辱と憤怒。独裁政治の闇をメディアに発信し、大統領選にも出馬した彼は、やがて「プーチンが最も恐れる男」と評されるようになる。そして今年2月、彼を恐れた当局により獄中死を遂げた。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 そんなナワリヌイが死の間際に獄中で綴った世界的な話題作『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』より「本物のロシア愛国者の声」を一部抜粋、再編集してお届けする。 『PATRIOT プーチンを追い詰めた男 最後の手記』連載第6回 『「この国では“運悪く”窓から転落することも珍しくない」…『プーチン体制』と戦い続けたナワリヌイ氏が明かした「災難だらけの日常」』より続く
「あの日」の出来事
推理小説よろしく、あの日の出来事一つひとつを正確につなぎ合わせていこうじゃないか。それが定石である。ほんの些細なことが謎解きの鍵を握っている可能性があるからだ。 あれは2020年8月20日のことだ。私はトムスクのホテルの部屋にいた。朝5時30分、目覚まし時計が鳴る。すくっと起きて、バスルームに向かう。シャワーを浴びる。ヒゲ剃りはしない。歯磨き。ロールオンタイプの制汗剤は空になっていた。それでも空の容器を脇に転がしてからごみ箱に放り込む。その容器は、数時間後に部屋を捜索に訪れた仲間が見つけることになる。大きなバスタオルを羽織ってベッドに戻り、今日は何を着るか考える。下着にソックス、Tシャツ。スーツケースの中を覗き込んで10秒。服選びとなると軽いめまいを覚えるような人間だ。 気恥ずかしい思いが頭をよぎる。昨日と同じTシャツというのもどうかな。もっとも、5時間後には自宅だ。着いたらまたシャワーを浴びて着替えればいい。いや、それはさすがにまずい。仲間に気づかれ、うちの代表は最悪にだらしないと思われても困る。 ホテルのランドリーサービスから洗濯物が戻っていたので、Tシャツとソックスを取り出した。スーツケースには新しい下着もあった。着替え終わって時計を見たら5時47分。飛行機には余裕で間に合う。その日は木曜日。毎週、同じスケジュールで動いている。木曜は何があろうと夜8時には生配信があり、ロシアの1週間を振り返って意見を表明することになっている。『アレクセイ・ナワリヌイと語る未来のロシア』は、ロシアでも屈指の人気を誇る動画配信番組で、5万~10万人がライブで配信を視聴し、さらにその後、オンデマンドで最大150万回もの再生数を誇っている。今年に入って視聴者数は100万人を割り込んだことがない(その日が木曜日でなかったら、あと数日はシベリアに滞在していた)。
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