「邦画は全然ダメだ。僕らが8ミリで撮っている方が面白いんじゃないか?」黒沢清監督を動かした“不遜な思い”
―― 黒沢さんはやっぱりそういうことを考えて自分の作品を作っていたんですね。 黒沢 それは身に染みてましたよ。アメリカ映画でもヤクザ映画でも恋愛映画でもいいんですけど、本気の商業映画に絶対勝てないなと。どうやったらああでないものができるんだろう……というか、全く同じようなことをやろうとしても絶対できない。小っちゃなモノマネをやるのもいいんですけど、それだと先が見えない気がして。すいません、ちょっと生意気な先輩だったかもしれません。 ―― いえいえ。とんでもないです。 黒沢 ただ、本心から言ったと思います。縮小版をやっていても先がないんじゃないかなと。今できることの最大限は何かを探したいよねと、正直な気持ちとして申し上げたかもしれません。 ―― 黒沢さんの映画は、映画館にかかっている映画に比べてもこの部分で勝っているとか、映画として違う面白さがあるとか、そういうものを狙っていたんですね。 黒沢 実際は非常に恥ずかしい仕上がりだったとは思いますが、そういう野心はありましたね。というのは、本当に生意気で自信過剰だったんだろうと思うんですけど、日本映画はまったく駄目だと思ってました。アメリカ映画やイタリア映画とかには、かなわないような映画がいっぱいあるんですけど。「ベルトルッチとかすごい」とかですね。日本映画でももちろん深作欣二さんとか素晴らしい方もいるんですけど、70年代後半から80年代にかけては全然駄目だなと。当時の新作日本映画という枠で見たら、僕たちが8ミリで撮っているほうがまだ面白くない?という、非常に不遜な思いはありましたね。たぶん石井聰亙さんとか大森一樹さんとか、みんなそれはあったんだと思います。それは生意気ながら、僕たち8ミリ映画の世代がそののちだんだん商業映画に進出していく原動力になったのかもしれないと思います。 撮影 藍河兼一 注釈 1) 長尾直樹 映画監督、CMディレクター。代表作『東京の休日』『鉄塔武蔵野線』『アルゼンチンババア』。 「今思い出しても恥ずかしい」黒沢清監督が初めてプロの現場を体験した沢田研二主演『太陽を盗んだ男』 へ続く
小中 和哉/週刊文春CINEMA オンライン オリジナル
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