知能が高い人が、人生で成功するとは限らない...本当に必要な“EQ”とは何か?
組織のIQを高めるEQ
イエール大学の心理学者ロバート・スターンバーグと助手のウエンディ・ウィリアムズによると、複数の人間が協力し合って仕事を行う際に、グループIQが発揮されるといいます。グループIQという言葉は、言語能力、創造性、共感能力、技術力などの様々な能力や才能が集結することを指しています。 このグループIQの高さを決めるのは、メンバーのIQの平均値ではなく、EQの高さです。つまり、グループとしての能力や生産性は、個々の能力の高低ではなく、人間関係で決まるとも言い換えられます。 また、個人の能力が問われるイメージがある研究者の世界でも成果とEQに強い関係があります。世界的に著名なベル研究所の卓越した成果を残している上位10から15パーセントの花形研究員について調べたところ、他の研究員と比べて知能テストの結果にほとんど違いがなかったといいます。ところが、花形研究員は仕事上の人間関係が他の研究員と異なっていました。 花形研究員の周りには信頼関係で作られたネットワークがあり、緊急事態には頼りにできる仲間が多くいたそうです。このようなインフォーマル・ネットワークには、コミュニケーション、専門技術、人望のネットワークが含まれます。花形研究員たちの行動のように、EQの発達がグループIQにはなくてはならないもので、企業の競争力にも影響を大きく与えます。
現代においては人生の成功よりも幸福の追求
ここまで本書の内容からEQの役割について、IQとの対比を含めて紹介してきました。初版から30年ほど経っているので、時代背景のところが若干変わってはいますが、おそらく今でこそよりEQが求められているように感じます。 人生の成功というと、特に本書が出版された1990年代においては、出世などを通じた社会的な地位や、金銭的な裕福さがイメージされていたように思います。しかし2020年代になって、出世などの限られた人しか勝ち抜けない競争や、金銭的な裕福さのような上には上がいる領域の目標を立てる人は少なくなってきています。人生の成功をそれらとみなすと、結果的に挫折を味わうことになる人が多いからだと想像できます。 そして、今多くの人が求める幸福の追求や、自分らしさの追求においても、やはりEQは大切な要素になっていくでしょう。人という社会的動物の幸せに対しても、まず自分を深く理解したうえで構築される、周りの人との良質な人間関係が大事なことは間違いなさそうです。 最近トレンドとなっている、エンゲージメント、自律的組織、心理的安全性などの言葉は、EQの一部を組織として実装されたもののようでもあります。より抽象化してとらえれば、EQは現代の企業環境でも大いに活かせる概念なのです。 ロングセラーにも様々なものがありますが、本書のように現代に続く様々な理論の下地となった作品に触れ、時代の変遷によらないその概念の普遍性に思いをはせてみてはいかがでしょうか。読者の人生における、たしかな生きる指針がえられるはずです。
大賀康史(フライヤーCEO)