劇中でフィルムカメラが使われている理由は? 映画『シビル・ウォー』の細部に宿る魅力を考察&評価【映画と本のモンタージュ】
映画と併せて読みたい一冊
『シビル・ウォー』はジャーナリストの映画であったが、彼らジャーナリストはベトナム戦争の戦場に自ら赴き現代戦争のリアルを初めてお茶の間に伝えた、国際世論にも強く影響を与えた。しかし90年代になると湾岸戦争やユーゴスラビア紛争と続くボスニア紛争などにおいて、報道と情報が戦争を有利にも不利にも働くことを知った為政者たちが、報道と情報を戦争に利用するようになった。 なかでも高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』(講談社文庫)は映画『シビル・ウォー』と合わせておすすめしたい。 いまはなき旧ユーゴスラビア連邦はスロベニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェコビナ、セルビア、モンテネグロの6つの国家による連邦国家だった。しかしこの連邦国家の構成は非常に複雑で、「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家」と呼ばれほど、民族・宗教・言語などが複雑に入り組んでいた。 ソビエト連邦が崩壊した1991年にセルビアを主体として連邦に民族主義的政権が生まれたのを機に、連邦から各共和国が独立。残ったセルビアとモンテネグロによる新ユーゴスラビア連邦軍とのあいだに悲惨な内戦が起こった。連邦国家に極端な政権が誕生したことで構成国家が連邦から離脱し内戦になるというのは、そのまま映画『シビル・ウォー』と同じである。 本書はユーゴスラビア紛争において「悪」とされたセルビアに対して行われた情報操作を請け負った広告代理店の内幕を描いたノンフィクションである。情報と報道の信頼が揺らぎ目眩いを覚えるほどの名著である。インターネットによって様々な情報が得られる現代において、一度は読んでほしい一冊。 【著者プロフィール:すずきたけし】 ライター。『本の雑誌』、文春オンライン、ダ・ヴィンチweb、リアルサウンドブックにブックレビューやインタビューを寄稿。元書店員。書店と併設のミニシアターの運営などを経て現在に至る。
すずきたけし