がん、震災乗り越え喫茶店 金沢・涌波の小村さん 念願の開店「一息つける場に」
肺がんを患い、能登半島地震で実家を失った金沢市涌波1丁目の小村宗紀さん(58)が、妻美奈子さん(53)とともに念願の喫茶店をオープンさせた。大病と災害という大きな苦難を受け止めて前を向く小村さん。能登の被災地に心を寄せ「大変でも生きるしかない。つらい思いをした人が一息つける店にしたい」と客を迎えている。 ●余命2カ月と宣告 富山で自動車販売の会社を経営していた小村さんは、2019年に肺がんの診断を受け入院した。「いろんな場所に転移した末期がんで、余命2カ月と宣告された」と話す。 最も苦しめられたのが、あご骨への転移だった。歯がぼろぼろになり、食べ物はかめなかった。抗がん剤や放射線治療で味覚障害もあり、唯一食べることができたのは冷めた焼き芋だった。 「焼き芋の養分で体力を蓄えた」と小村さん。退院できた小村さんは、余命を延ばしてくれたイモの力を伝えるカフェを出したいと考えるように。会社を畳んで田上新町の実家に戻ると、住居兼店舗の物件を涌波で見つけ、昨年12月27日に引っ越した。 ●田上新の実家崩落 今年の元日は田上新町の実家で母親や娘とくつろぎ、午後4時に毎年恒例のカラオケに一家総出で出掛けたという。その道中、地震が発生。慌てて引き返すと実家は周囲の道路とともに崩落していた。「あと10分、家にいたらどうなっていたか。家族全員無事だったのは、たまたまだ」 衝撃の光景にしばらくぼうぜんとしたが「下を向いていても仕方ない」と考えを切り替え、焼き芋を提供する喫茶店も地震前の計画通り進めた。 店は今月2日にオープン。3人の娘と「三本の矢」の教えにちなみ「スリー・アローズ」と名付けた。3人で支え合って困難を乗り越えてほしいとの願いを込めた。 店は主に美奈子さんが切り盛りし、焼き芋をはじめイモを使ったスイーツや、専用機械「エアロプレス」で滴下したコーヒーでもてなす。小村さんは体の調子と相談しながら店に立つ。「私のことを知った誰かが頑張ろうと思ってくれればうれしい」とほほ笑んだ。