G7サミット開催の「事実」アピールに執心の広島市、核抑止論に利用された痛恨の現実は直視せず
フォロワー数が1万人にも満たないわたしのX(旧ツイッター)アカウントで先月、ある投稿のインプレッションが390万近くに達した。 【写真】自民党政治刷新本部の座長を務める鈴木馨祐衆議院議員 広島の地元紙・中国新聞が、前日に続いて「政治とカネ」(というより「自民党政治とカネ」)に関するスクープを1面トップで報じている、という投稿。「国政選挙で機密費から100万円」との見出しで、候補者に渡す陣中見舞いの原資に内閣官房報奨費(機密費)を使っていたと、自民党政権でかつて官房長官を務めた人物が証言したと報じる新聞記事を紹介するものだった。 900超の引用投稿の多くは、怒りを持ってこの報道を評価するもののように見受けられた。政権批判のようなことを投稿すると、権力を擁護する人たちから何かしら攻撃されるものだが、それらは見当たらなかった。 ■ 「ファクトに基づいた議論を」という人がファクトを示さない ところで、このスクープのわずか2日後に「完全否定」する人物が現れた。裏金事件を受けて自民党が設置した政治刷新本部で、法整備検討作業部会の座長として政治資金規正法改正案の取りまとめを担った鈴木馨祐衆院議員。 5月12日のNHK「日曜討論」に出演し、こう言い切った。「全面的に否定をいたします。当然、選挙目的、党目的で官房機密費を使うことはありません。そこはまず、断言させていただきたい」。そして「ファクトに基づいた議論を」と呼びかけた。 だがその翌日、5月13日に放送されたBS-TBSの「報道1930」で、鈴木議員は野党議員からいわゆる「フルボッコ」にあう。官房長官しか知り得ない機密費について、その立場にない人がなぜそんな断言ができるのかという、至極まっとうな問い。 鈴木議員は、しどろもどろになりながら「林官房長官がノーコメントだから私も話はしない」。「全面否定」と「断言」はどこへやら。
出色だったのは、このツッコミだった。「じゃあ、今回の議論でファクトが明らかになっているのか。何も明らかになっていない。どこに何があるのかわからないまま再発防止と言っている」。 政治倫理審査会にしても、記者会見にしても、裏金問題に関する事実関係を詳らかにしていない側が「ファクトに基づいた議論を」だなんて、確かに笑止千万だ。 ■ 観光客増の理由は本当に「G7サミット開催」なのか 黙るしかない「断言議員」の様子を見て、まったく裏金などとは関係ないことではあるが、わたしがここ半年ぐらいモヤモヤし続けている、あることが頭をよぎった。 それは、昨年5月のG7広島サミット開催以降、広島市などがしきりに発する「G7広島サミットによって、広島を訪れる人が増えた」という言説が、どんなファクトに基づくものなのだろうか、ということだ。 なぜなら、わたしは仕事などで首都圏や関西圏にたびたび行くが、観光客が増えたのは何も広島に限ったことではなく、むしろ、コロナ禍の5類移行や歴史的円安によって、海外からの訪問客が全国的に劇的に増えているのが理由だと思えてならないからだ。 実際、わたしが国内外から来る知人や、あるいは街で行きずりの人たちと行きずりの会話をする中で「G7広島サミットがあったから広島に来た」と言う人はまるでいない。 にもかかわらず「サミット効果」はマスメディア報道によって喧伝され続けた。平和記念資料館(原爆資料館)の入館者が、サミットが開かれた2023年度に過去最多となる176万252人となったという速報値を伝える2月23日の報道は、そろってこんな調子だった。 「G7広島サミットの開催で関心が高まったことなどが影響したということです」(NHK) 「来館者増の要因として、市は『昨年5月のG7サミットを契機に資料館への関心が高まった』としている」(朝日新聞) 「先進7カ国首脳会議(G7サミット)を受け、被爆地への関心が高まったことなどが追い風となったという」(中国新聞) 何を根拠に言っているのだろうか。5月16日の広島市長記者会見で「サミットから1年」が項目に上がっていると聞き、会見に参加した。松井一實市長は、こう発言した。 「昨年度の資料館の入館者数が過去最高となりました点につきましては、広島サミットの際に、国内外の多くのメディアを通じまして、平和の発信ということとともに、この広島の魅力といったものを世界各国に発信できたことによる成果であると思っています」